学校法人 玉川学園 Puente 2014.06 vol.04
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06│Puenteたまがわ的川 原動力をモチベーションとして維持、継続していくには、お金がないことも重要なポイントですよ。糸川先生がいつも「金がなければ頭を使え」と言っていましたが、今でも宇宙開発・研究では合言葉のようになっています。「はやぶさ」が奇跡的に帰還できたのも、ない中での工夫の結果だと思います。NASAと比較して、同程度のプロジェクトにかける予算は3分の1、欧米の研究者に驚かれました。ないなりに、研究室でコツコツ作ったり、匠の技を持っている中小企業と膝詰めで交渉して協力を得たり……。でも、飛んでからピンチに陥った時は、自分たちの力で作った人工衛星だから隅から隅までよく分かっています。それだけに危機を乗り越えるための引き出し、ノウハウをいっぱい持っていたことが、奇跡の帰還につながりました。渡邉 研究費など補助金に縛られてしまうと、研究者の自由な発想や努力の芽を摘んでしまったり、可能性を狭めることにもなります。失敗で得た知識や技術、経費がない中での工夫は、研究活動には大切なものなのだと、私も考えています。渡邉 時をさかのぼって、的川先生の探究心を育んだきっかけは何でしょうか。的川 宇宙を求めていく心が養われたのは、小学生の頃の夜釣りにあると思っています。渡邉 夜釣りですか。的川 そう、ボートに乗っての夜釣りです。広島県呉市の生まれで、目の前は瀬戸内海。静かな海だから釣りには最適で、よく連れて行ってもらいましたが、魚が釣れないとヒマで何もすることがありません。周りを見回しても何も見えないけど、空には星が煌めいています。だから釣れない時は、いつも宇宙と会話してました。「あの星には光速で9年で到着できるけど、あっちの星は600年かかる」なんて話を聞くと、「宇宙には奥行きがあるんだ。星と星の間を縫うようにずーっと向こうまで冒険することができるんだな」なんて考えて……。あの時に、宇宙を求める心ができたかなと思っています。渡邉先生はどうですか。渡邉 父親の影響が大きかったですね。父は名古屋のミシンメーカーのオーディオ部門の電気技術者でした。私が小学校5年生くらいの頃、「新しいランプだよ」と見せてくれたのがLEDでした。LEDが開発されたばかりで、ほのかに光るくらいでしたが印象的でしたね。赤やオレンジのLEDでしたが、小学生の理科で使う豆電球を赤のマジックで塗ればたいして変わらないと思い、LEDの新しさがまったく解りませんでした(笑)。的川 なるほど、LEDが一生の友人になるとは思いもよらなかった出来事ですね(笑)。渡邉 確かに50歳を過ぎてもLEDを取り扱うことになるとは思わなかったですね(笑)。父は技術屋らしくトランシーバーやゲルマニウムラジオなどを買ってくれて、使ったり仕組みPROFILE宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授・教育・広報アドバイザー。子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)名誉会長、日本宇宙少年団顧問、はまぎんこども宇宙科学館館長、さがみ風っ子教師塾塾長、子ども大学かわごえ学長。日本学術会議連携会員、国際宇宙教育会議日本代表、米国惑星協会(TPS)評議員、リモートセンシング技術センター評議員、極地研究振興会評議員、日本モデルロケット協会理事、工学博士。1942年広島県生まれ。東京大学大学院工学研究科航空学科専攻博士課程修了。東京大学宇宙航空研究所、宇宙科学研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)教育・広報統括執行役、同宇宙科学研究本部対外協力室長を経て、現職。この間、ミューロケットの改良、数々の科学衛星の誕生に活躍し、1980年代には、ハレー彗星探査計画の中心的なメンバーとして尽力。1996年からの「はやぶさ」プロジェクトでは広報を担当。2005年には、JAXA宇宙教育センターを先導して設立、会長となる。2008年6月NPO法人「子ども・宇宙・未来の会」(KU-MA、クーマ)を設立、初代会長となる。日本の宇宙活動の「語り部」であり、「宇宙教育の父」とも呼ばれる。Yasunori Matogawaを考えたりするのがとても楽しかったですね。的川 「宇宙」をテーマに子供たちへの教育活動を行っていますが、たくさんの子供たちと話していると、「この子の発想、センスは、いつ、どのように形成されたのだろう」と思うことがよくあるんです。たとえば、イチローや浅田真央といった一流スポーツ選手のすばらしいスポーツのセンスはいつごろできたのかとか。いろいろ調べてみると、3、4歳頃にたどり着くようですが、はっきりとは分かりません。児童心理学者の友人には、「それが分かれば苦労しない」と言われます(笑)。脳科学者に聞くと、あと数十年すれば解明されるようになるかもと言う。DNAか育った環境下でも議論の分かれるところですが。科学者も同様に、科学におけるセンスのよさは重要です。方程式を解くといったスキルは後から勉強すれば身に付きますが、センスのよさ、発想の独創性の形成には、幼稚園や保育園の幼い頃のことが大きく影響されると考えています。小学校以降になると、センスを磨き上げる段階で、これもまた重要です。センスを見つけて形成をたすけ、そして磨き上げるのは大人のとても大事な仕事だと思っています。渡邉 子供たちのいろいろな個性、センスという芽を育てるような仕組みは、大切ですね。的川先生が取り組んでおられる宇宙教育といった活動も、子供たちのセンスを育むのに大きな影響を与えていることでしょう。的川 たとえば、「子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)」で開催する「宇宙の学校」では、虹や種など身近な現象や素材を活用して、子供の好奇心や冒険心、匠の心を育み命の大切さに気づかせていくことをコンセプセンスの芽を見つけ育む役割を担う対談的川泰宣渡邊博之宇宙ステーションや惑星基地での植物栽培を想定して、擬似無重力植物栽培装置や減圧下での水耕栽培装置による研究を進めている(Future Sci Tech Lab内)

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