キャンパス・ウォッチング

2018.09.26
協働的な、学びの場と仕事の場
これからの時代は、こんな職場から新しい仕事が生まれるのだろうか。そう感じたのは、東京都千代田区にあるヤフー本社の「LODGE」を訪ねたときだった。コワーキングスペース、あるいはオープンコラボレーションスペースと呼ばれ、登録すればだれでも使える仕事の場だ。山小屋のイメージからその名前がついている。
色とりどりで多様な形の椅子があり、ハンモックや子ども部屋のような机もある。カフェもあって簡単な食事もできる。窓際の席からの眺めもいい。広さ約1330m2で約270席。ワンフロアをほぼ使いきっている。様々なイベントも行われる。掲示板をのぞくと、連絡を求める様々な企業の社員の名刺も張りつけてあった。
このスペースを見学して、学生の能動的かつ協働的な学びを促す大学のラーニング・コモンズに似ていると思った。ラーニング・コモンズには、学習を支えるサポートデスクがあるのが普通だが、「LODGE」には、外部からの来場者同士や来場者と社員のコミュニケーションを図る役割の人も配置している。


文部科学省の学術情報基盤実態調査では、図書館などに「アクティブ・ラーニング・スペース」を設けている大学が、2017年度で512大学になった。全国の大学の3分の2にあたり、7年前の4.65倍という急増ぶりだ。
最近の大学のラーニング・コモンズに目立つのが、ファミリーレストランのような机と椅子。学生に1番人気があって最初に埋まるらしい。わきに小さなホワイトボードを置けば、議論ができる小さな会議室になる。



(玉川大学 教育学術情報図書館)
一方で、ざわついたラーニング・コモンズが苦手で、静かな個室を望む学生も少なくない。玉川大学にも、ラーニング・コモンズと別のフロアの図書館に、1人で学習できるスペースが100室近く用意され、時には満員になるほどよく利用されている。
ラーニング・コモンズにおける学生の学び方を、定量的かつ定性的にじっくり調べ、コモンズの使い方まで考える研究は、まだ少ないようだ。自分もその実態を調べてみたいが、コモンズのあちこちにカメラと集音マイクを置き、ICチップで学生の動きを把握するようなことは、プライバシーを考えると容易ではない。
ラーニング・コモンズを取り込んだ最近の新しい大学図書館には、大学の個性が反映されていると言っていい。
東京大学の本郷キャンパスにも昨年、大規模改装中の総合図書館の隣に「ライブラリープラザ」が完成、この10月から稼働を始める。約800m2の広さで席数は200ほど。学生の議論や発表の場としてだけでなく、異分野の研究者同士の交流や、研究者と学生の出会いの場にもしたいのだという。
多摩美術大学八王子キャンパスの図書館は、建物の曲線美からして美大らしさを醸し出している。内部も芸術系大学ならでは。<空飛ぶ絨毯>と学生たちが呼ぶ、横になって天井を見上げたくなるようなソファや、床に傾斜があるのに座ると妙に落ち着く椅子があって、その場にいるだけで楽しくなる。

多様な図書館があって当然だが、ラーニング・コモンズの急増は、これからの時代には、より協働的な学びが必要だという大学人の共通認識の表れと言える。そして、コワーキングスペースもいま、都市部中心に急増している。協働的な学びと協働的な仕事の創造の場は、切れ目なくつながっているようだ。
このように考えれば、これからの大学図書館とラーニング・コモンズを進化させていく方向性が自ずと見えて来るはずだ。

中西 茂(なかにし しげる)
玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア
プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。
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