キャンパス・ウォッチング

2021.07.26
つながり格差を意識しよう
にぎわいを見せるオンライン空間
対面授業が一定程度行われるようになったといっても、コロナ禍のキャンパスは、かつてのようなにぎわいを取り戻さないまま2年目の春学期の授業が終わった。だが、水面下ならぬオンライン上では新たな取り組みがにぎわいを見せている。その代表格が、STREAM Style xTalks(クロストーク)と称するオンラインイベントと言っていいだろう。工学部の小酒井正和教授の呼びかけで、この4月からほぼ月1回のペースで開かれている。
STREAMとは2020年に開館した新しい校舎(ホール)の名前だ。最近、その必要性がとみに叫ばれているSTEMやSTEAMにロボティックスのRが加わった。この校舎の周辺には、この春にConsilience Hall 2020も開館し、既存の施設と合わせてESTEAMエリアと呼ばれている。
(詳しくはhttps://www.tamagawa.jp/introduction/90th_aniv/stream.html)





3Dプリンターなどを備えたメーカーズフロアやロボットラボなども



ハイブリッドソーラーカーを研究・制作するケムカー工房がある
STREAM Hall 2019ができる前年の2019年度からは、異分野を融合させて新しい価値を生み出そうという狙いで、工学部、農学部、芸術学部の学生が一緒になって活動する「工・農・芸融合価値創出プロジェクト」の授業も展開されてきた。ただ、残念ながら2020年度はコロナ禍で新校舎そのものをフル活用することはできなかった。
STREAM Style xTalksも、同じ流れの中で始まった。ゆくゆくはリアルな会も開かれることになるのだろうが、いまはオンラインの利点を生かし、遠隔地からも多彩なゲストを招いて、コミュニケーションの輪を広げている。
初回には、地方に拠点を置く国内有数の劇団「わらび座」(秋田県仙北市)の笛奏者の小沢剛さんとミュージカル「空!空!!空!!」の主演女優の川井田南さんをゲストに招き、「⼈に会いづらい時期の舞台芸術を助けるSTEMとは」とコロナ禍らしいテーマで話し合った。
2回目のテーマは「脳科学への招待、そしてその周縁へ」。玉川大学脳科学研究所の松元健二教授や、ロボット研究で知られる大阪大学の石黒浩教授の研究室に所属する高橋英之・特任准教授の話を聞き、自分の研究や仕事にどう生きるかを考えた。
そして3回目のテーマが教育だった。ICTを通じて「新しい学び」を提案するチーム"iTeachers"のメンバーである聖徳学園中学・高校の品田健教諭、同志社中の反田任(たんだ・たかし)教諭を招いた。参加者はこれまでで最も多い約50人。「教師教育 × ESTEAM教育 -次世代の子供たちのためにどう実現するか-」がテーマとなった。
教員も学生も卒業生も一緒に議論


このオンラインイベントのユニークなのは、様々な学部の教員が参加しているだけではない。学生も卒業生も、立場の違いを超えてワイワイガヤガヤと、アイデアを出し合おうとしていることだ。参加者の中には、筆者の授業を受けたことのある学生や卒業生もいた。
4回目はいよいよモノづくりがテーマになる。いずれは新しい何かが生まれることになるだろう。いや、自分もそこにどうやったら参画できるか、知恵を絞らなければいけないのだ。
もともと大学というのはそういう場所だったはずだ。そのためのつながりが断ち切られたままでいるわけにはいかない。ましてや、すべての学部、そして幼稚園から大学までがワンキャンパスにあるのだからなおさらだろう。
コロナ禍だからこそ、学内の風通しを良くするツールをもっとつくる必要がある。裏を返せば、つながらないと情報が入って来ず、退歩してしまうのが、いまのご時世なのだと思う。
そして、学校という殻に閉じこもりがちな教育の世界にこそ、つながりが必要なのだということを改めて思う。そのつながり格差が1年以上も続いたら、その差は相当なものになってしまうだろう。
※ストリームスタイルの教育については以下のサイトもご覧ください。

中西 茂(なかにし しげる)
玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア
プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。
- 掲載記事に関する免責事項