キャンパス・ウォッチング

2022.11.25
キャンパスの内と外をつなぐ

3年ぶりのリアルなコスモス祭で、筆者のゼミも初めて教育学部展に参加した。
地域と学校の関係をゼミの研究テーマにすえてきたので、コロナ禍でなかなか実現できなかったゼミ旅行先は京都。明治の初め、学制頒布より前に、地域がお金を出し合って小学校をつくったまちである。学部展では、この京都の学校のことに加え、玉川学園地域と学校の関係に関わる活動も紹介した。学園のまちの学校と地域の関係もまた濃厚なのだ。
祭りに学生ボランティア

筆者は昨年度から、大学に最も近い公立小学校である町田市立町田第五小学校の学校運営協議会長を務めている。その縁もあって、玉川学園のまちにでかける機会が増えた。
久しぶりに校庭で開かれる地域の祭りを手伝ってもらえないか言われて、大学のボランティアサークルの学生を紹介もした。祭りの関係者から「コロナ禍で他大学のボランティアとの縁が切れてしまって」という話を聞いて、一番近い大学の学生が協力しないわけにはいかないと思ってつないだのだ。

このまちの地域の活動で注目していることのひとつに、「きんじょの本棚」がある。自宅やお店の前に本棚を設けて自由に貸し借りができるようにする活動だ。校区内だけでも約20か所に本棚がある。
そんな中、町田第五小学校では今年度、読書活動を重視したいという方針が出た。それならこの「本棚」のことを子どもたちにもっと知ってもらおうと考え、ゼミ生にも協力してもらって地図入りの紹介資料をつくった。夏休み前には児童全員に配ってもらったので、このことをコスモス祭での展示の一つに組み込んだ。
本棚については、町田市内の本棚店主が集まって、ちょうどコスモス祭と同日、町田市の野津田薬師堂で「きんじょの本棚まつり」が開かれた。そこでは、本棚の店主や来場者に、小学校高学年におすすめの本を書いてもらった。学園地域に住む店主の発案だった。
ランチ難民対策の提案
教育学部展で紹介したもう一つの展示は、地域のお店とつながって、玉川大学の学生のランチ難民化を解消できないかという工学部マネジメントサイエンス学科の学生グループの提案である。この提案は、8月に開かれた「4大学対抗プレゼンバトル2022」で発表もされている。
学生が駅からキャンパスの反対方向に当たる商店街に足を運ぶことは少ない。昼食を近くのコンビニで調達することにはあきていることも、学生グループの調査で浮き彫りになった。それなら、まちの飲食店が学生に、駅から大学までの間で昼食をテイクアウトできる仕組みがほしいというのが、プレゼンの趣旨である。この仕組みが実現すれば、学生だけでなく、教職員にも好都合ではないだろうか。
坂のまちが研究対象に?

学校運営協議会長として、地域の集まりにも参加するようになって、気づかされたこともある。坂の多い学園のまちを、住民の多くが前向きにとらえようとしていることだ。
「この坂を毎日上り下りしているから、元気なの」というお年寄りが多いのだそうだ。それなら、大学でそのことを実証する研究ができないものかと、まちの人から提案があった。そんな提案も、大学につなごうとしている段階だ。「(仮称)坂のまち玉川学園・元気プロジェクト」のイベントが、近いうちに実現できるかもしれない。
学園とともに発展してきたまちなのだから、もっとキャンパスの内と外をつなぎたい。そうすることで、広大な学園のキャンパスは、さらに広げることができると思う。それは物理的な広がりだけではない。

中西 茂(なかにし しげる)
玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア
プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『教育改革を問う キーパーソン7人と考える「最新論争点」』(教育開発研究所)、『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。
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