キャンパス・ウォッチング

キャンパス・ウォッチング 教育ジャーナリストの立場から、学内外の教育現場の課題やあり方を自由な視点で語っていきます

2018.06.25

コピペを巡る攻防

 <学ぶ>ことは<真似る>ことから始まると言うが、インターネット時代を生きる学生たちに、そういう意識がどこまであるのだろうか。

 6月に筑波大学で開かれた大学教育学会で、「剽窃を防ぎ、学生を思考にいざなうレポート課題の出し方」というワークショップに参加してみて、よくわかった。学生が安易にコピー&ペースト(コピペ)をしてしまう、その責任の一端は教員にあるということだ。
 「〇〇について述べよ」というような、それこそ安易な課題を出そうものなら、昨今はたちまち、インターネットでコピペをする学生が出てしまう。自分の頭をしっかり使わないと書けない課題の設定に、教員の方が知恵を絞る必要がある。
 逆説的に、すべてコピペでレポートを書く課題を出したある大学教員の話は、何年も前に耳にしたし、コピペを発見するソフトも今では珍しくない。同じ学会では、文章の作成過程がたどれるグーグル・ドキュメントでレポートを提出させて、コピペを分析した発表もあった。これは、とある医科大学の話である。

剽窃を巡る発表やワークショップは、学会のテーマとしても扱われている
※スライドの中の講師名とメールアドレスの表記は消しています

 コピペと言えば、まだ新聞社に勤務していた3年前、東京大学教養学部が発表した処分のことが記憶に残る。ある学生の期末レポートの文章の約75%が、インターネット上に公開されている文章からの引き写しであることが判明したとして、この学期の全科目の単位を無効とすると、報道機関に伝えたのだ。
 この措置を決めた当時の学部長、石井洋二郎さんは、この年度の入学式の式辞でコピペについて、「意図的な引き写しは明らかな不正行為ですから論外」としたうえで、思考のコピペに言及している。

ネット時代の剽窃は、大学だけに留まらず、
社会全体の問題でもある

 「厄介なのは無意識のコピー&ペースト」で、「オリジナルなことを言っているつもりでも、じつはこれまで誰かによってすでに言われてきたことを焼き直しているにすぎない、といったことは往々にしてある」というのだ。学生でなくてもドキリとするくだりだ。そして「いささか逆説的に聞こえるかもしれませんが、他者の思考の模倣に陥らないためには、まずその中にどっぷり身を浸してみることだ」と徹底した読書を推奨している。

 教員の立場になれば、読み始めて「これはおかしい」と直感的に気付くレポートは少なからずある。だが、そんなレポートを提出した学生に問いただしても、“のれんに腕押し”で悪びれる様子がない。これまで「剽窃はいけないことだ」と教員から口酸っぱく言われてきて、しかも、実際にやれば大きなペナルティーが待っている。それでも、自分のやったことが剽窃だと頭で理解できていないのだから深刻である。
 自分が受け持つ学生にコピペが多くて困っていると積極的に明かす話題ではないのだろうが、この問題は近年、大学の教員を大いに悩ませている。学生との<攻防>は日々続いているのである。
 そして頻発するコピペは大学教員だけの問題ではない。電子化された膨大なデータとどう向き合うのか。それは私たちの社会が突き付けられた課題と言っても過言ではない。

中西 茂 教授
中西 茂(なかにし しげる)

玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア

プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。

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