キャンパス・ウォッチング

キャンパス・ウォッチング 教育ジャーナリストの立場から、学内外の教育現場の課題やあり方を自由な視点で語っていきます

2019.01.15

大人との出会いを学ぶ新科目

 教員は児童や生徒と向き合うことが教員の第一の仕事だ。教員志望者がそう考えるのは当然かもしれない。だが、実際に教員になってから戸惑うのは、子どもと向き合うのと同じぐらい、地域の人や保護者と向き合う必要があることだ。
 最近は、地域住民や保護者が学校運営に参画するコミュニティスクールが増加するなど、政策面でも地域との関係づくりを抜きに学校教育は語れない。一方で、モンスターペアレンツと呼ばれる保護者の対応に悩み、つぶれてしまう新任教員も後を絶たないと言われる。
 今学期の新科目「地域創生プロジェクトC」で、大学の地元、町田市玉川学園地域を学生たちが取材して、フリーペーパーの増刊号を発行するという授業を提案した出発点はそこにあった。
 取材をして原稿を書くには、コミュニケーション力を付け、文章力を磨く必要がある。玉川学園地域は、学園とともに発展してきた歴史があるが、一連の活動を通して、学生が大学と地域の関係を再認識してもらいたいとも考えた。学生とのつながりが深まることで地域も元気になってもらえれば、まさに地域創生のプロジェクトであり、一石二鳥どころか、三鳥にも四鳥にもなるはずだ。
 こうした授業のアイデアを、地元でフリーペーパー「玉川つばめ通信」を編集発行している宇野津暢子さんも、地元の町田市立町田第五小学校長の五十嵐俊子さんも、面白がり、授業の意義をすぐに理解してくれた。宇野津さんは地元に住む元大手出版社の編集者であり、五十嵐さんは元中央教育審議会の委員だ。これほど心強い援軍はなかった。

写真:地域創生プロジェクトCで学生に教える宇野津暢子さん「玉川つばめ通信」での取材経験を宇野津さん(中央)から聞く
写真:町田市立町田第五小学校を訪問した様子学校と地域の関係を町田第五小の五十嵐校長(一番奥)から学ぶ
写真:地元のなかよし公園で開かれたおむすび食堂(2018年12月)キャンパス近くの公園で開かれた「おむすび食堂」
(2018年12月)

 1月に学生たちがつくった「玉川つばめ通信」の増刊号では、ささやかなお手伝いをマッチングさせる玉川学園地域オリジナルの福祉サービス「玉ちゃんサービス」、子どもたちと住民の交流の場を提供する「おむすび食堂」や、学生のお気に入りの飲食店、学生ボランティアの地域での活動を紹介した。大学に入学してからこの地域に住むことになった学生のコラムも入れた。宇野津さんのサポートもあって、学生らしくかつ味のある誌面ができたと自負している。
 教員になることが決まっている教育学部の4年生は特に、この授業の意味に気付いてくれたようだ。そのうちの一人は、Youtube のiTeachersTVの番組(https://youtu.be/613hb0XXApo)で、この授業の意義を紹介してくれた。
 そして、筆者にも新しい発見があり、たくさんのつながりができた。この地域の様々な活動にかかわる人たちが、いかに多様で、熱心で、面白いかを、おそらく学生以上に感じることができた。

写真:おむすび食堂のスタバ屋台に集まる子供たちを背に林店長を取材する筆者(北村友宏さん撮影)「おむすび食堂」のスタバ屋台に集まる子どもたちを背に、
エプロン姿の林店長と話す筆者(北村友宏さん撮影)

 その中の一人にスターバックスコーヒー町田金森店の林健二店長がいる。店は同じ町田市内でも玉川学園と離れた場所にあるが、「おむすび食堂」に屋台を出してコーヒーやお菓子を届けてくれている。
 林さんは、自分の店でも、認知症の人たちが集まれるDカフェや、手話でおしゃべりする会など、地域との関わりをつくるアイデアを実現してきた。地域学習で訪れる小学生も積極的に受け入れ、まちづくりに何が必要か、地域を豊かにするにはどうすればいいかを子どもたちと議論した。こうした中で「おむすび食堂」の主宰者で、小学生の母親でもある秋田史津香さんとの縁もできた。
 林さんは、学生や地域の子どもたちと、玉川学園でスタバ屋台を開いてみたいそうだ。実現すれば地域を元気にするきっかけの一つになるに違いない。「地域創生プロジェクト」の授業の、次の展開が見えてきた気がしている。

写真:学生たちがつくった「玉川つばめ通信」の増刊号
写真:学生たちがつくった「玉川つばめ通信」の増刊号
学生たちがつくった「玉川つばめ通信」の増刊号
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中西 茂 教授
中西 茂(なかにし しげる)

玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア

プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。

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