キャンパス・ウォッチング

キャンパス・ウォッチング 教育ジャーナリストの立場から、学内外の教育現場の課題やあり方を自由な視点で語っていきます

2019.05.30

授業外学修時間へのこだわり

 日本の大学生は勉強しないと言われてきた。本当だろうか。大学に勤務し始めてから感じている素朴な疑問である。

写真:「利用中」の表示が灯るキュービクル空席情報画面キュービクルの利用状況はパソコンからもみることができる。
赤い表示が「利用中」。真っ赤になる日も少なくない。

授業期間中の大学の図書館は、いつも学生でにぎわっている印象がある。キュービクルと呼ばれる館内の個人学修用スペース(96席)は、満席に近いことも珍しくない。
 2018年度の授業期間中、図書館が閉館1時間前(午後8時)の在館学生数を集計している。その結果は1日平均約140人で、在学生の2%弱だった。この数と割合の評価は難しいが、授業外学修にかなりの時間を割いている学生がいることは間違いない。

 自分の授業でも、一つの課題にかけた時間を意識して聞くことにしている。テーマにもよるが、3時間、4時間という学生がざらにいる。授業外学修時間を増やすのは教員次第という思いを強くする。
 だが、統計上の授業外学修時間は増えていない。この何年間か、週5時間前後のままである。

 授業外学修の徹底を求めたのは、中央教育審議会が2012年に出した通称「大学教育の質的転換答申」である。単位を実質化して大学教育の質を保証することを狙った。
 玉川大学は、この流れで2014年度から始まった文部科学省の補助事業「大学教育再生加速プログラム」(AP)の採択校のひとつである。学生の授業外学修時間に関しては、週当たり24時間以上にするという大胆な目標値を掲げた。
 それだけではもちろんない。半期で履修できる授業を16単位にするというCAP制を採り、授業外学修を促す課題をシラバスに示すようにするなど、答申が示した提案を着実に実行しようとしてきた。
 それでも、授業外学修時間は伸びないのである。

 5時間前後という調査の数値が本当に実態を表しているのかという問題もある。まず、年に1度のアンケートであるため、学生がどれだけ意識して回答しているかが怪しい。しかも、選択肢は3-5時間の次が6-10時間と幅がある。
 全国120大学を対象にした東京大学大学経営・政策センターの2018年の調査では、学期中の1週間で「授業・実験の課題、準備・復習」にかける時間は、1-2時間と0時間を合わせて45.7%、3-5時間が26.9%だったから、授業外学修時間の底上げは、全国的に見ても容易ではない。
 もちろん、求められているのは大学教育の<質>の保証であって、授業外学修時間という<量>ではない。<時間>より<中身>だ。ただ、一定の<量>の学修時間がなければ、<質>を高める話にはなるまい。

写真:ラーニング・コモンズでのグループワークも広がっているラーニング・コモンズでのグループワークも広がっている
写真:「1日8時間大学で過ごす」のポスターも、学生の授業外学修を促している「1日8時間大学で過ごす」のポスターも、学生の授業外学修を促している

 たとえ届かない目標であっても、大目標を掲げて改革を進めることの意味は小さくはないという考え方もあるだろう。文科省のAPで当初、週20時間以上の目標を掲げた大学(短大・高専を含む)は、玉川大学以外に10校もあった。
 ところが、2018年度までの5年計画だったAPは、その後、衣替えをして1年延長されたのを機に、さまざまな見直しが図られた。授業外学修時間に限れば、2017年の中間評価の実績値で、数値を伸ばしている大学もあるが、調査方法を見直して事業開始前の数値と比較できなくなった大学も少なくない。中には、開始前より目標値が小さくなってしまっている大学さえある。
 文科省の担当課は「1年延長で、目標を引き上げるか、追加するよう指導した」というのだが、個々の大学の混乱を見ると、全体として授業外学修時間の伸びを測れるとは思えない。玉川大学では見直しの結果、「大学によって調査方法がバラバラに過ぎる」として、事業の目標数値の一覧表から外してしまった。
 今回の事業による調査で、日本の大学生も勉強するようになったというエビデンスが示せたかもしれないのに、その機会を逸してしまったような気がする。

写真:企業を学内に招いた説明会も開かれてはいるが・・(2月撮影)企業を学内に招いた説明会も開かれてはいるが・・(2月撮影)

 ただ、過重な課題を個々の教員がバラバラに出すだけでは、多くの学生はパンクしてしまうだろう。大学生をもっと勉強させるには、授業外の課題を増やすだけでなく、アルバイトの時間や自宅生の通学時間を減らす必要がある。
 「日本の大学生は勉強しない」という苦言は産業界にも多いと思うが、本気で勉強させたいなら、授業を欠席して就職活動をさせてはいけない。社会の構造を変える必要があるということに早く気付いてほしいのだが、今年度もまた、ポツリポツリと就職活動のために授業を欠席する学生が出てきた。個々の学生に文句を言うわけにもいかず、「やれやれ」とつぶやくしかない。

中西 茂 教授
中西 茂(なかにし しげる)

玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア

プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。

  • 掲載記事に関する免責事項
  • 一般情報について
    記載内容は著者個人の見解であり、所属組織の公式見解または代表する意見ではありません。
  • 著作権等の扱いについて
    玉川大学、玉川学園の公式ホームページの運用に準じます。詳しくはこちらをご覧ください。

関連リンク