キャンパス・ウォッチング

キャンパス・ウォッチング 教育ジャーナリストの立場から、学内外の教育現場の課題やあり方を自由な視点で語っていきます

2019.10.09

野外活動研修の大きな意味

写真:不法投棄場所のごみの分別作業

写真:どしゃぶりの雨に見舞われて、この状況 (上)不法投棄場所のごみの分別作業    
(下)どしゃぶりの雨に見舞われて、この状況

 その立場になってみないと実感がわかないというのは、あらゆる職業に言えることかもしれないが、教師という職業はその要素がより濃い気がする。9月上旬、教育学部の2年生全員を対象に行われた2泊3日の野外活動研修に初参加して、まず思ったのがそのことである。この研修は自然体験活動や仲間と協力し合うことを通して自分自身と向き合うとともに、指導者(教師や保育士)になったときの視点に立って必要な技術や知識に触れ、リーダーシップや安全対策について理解を深めることを目的にしている。

 まず、富士山のふもとに不法投棄されたゴミの分別作業というボランティア。NPO法人富士山クラブの皆さんの指示に従うが、玉川学園伝統の<労作>の一つという位置づけでもある。3団に分かれての活動だが、筆者が同行した団は、作業がスタートしてまもなく、現地は土砂降りとなった。坂道を滝のように雨が流れ、がれきを集めたバケツにもすぐに雨水が溜まった。

 指示通り、バスに引き上げて雨がやむのを待つ学生も少なくない中、近くの木陰で雨宿りをしながら「この程度で逃げ出していたら教師なんか務まらない」とつぶやく学生の声を聞いた。雨具を着こんでも濡れねずみになりそうな状態だった。
 野外での活動は、体を冷やさないようにする必要がある。天候の変化で何が起きるかわからないから、安全をどうやって確保するかの判断も大事だ。担任として同行した自分自身が教師目線で学生を追っていた。

写真:周囲の草花や枯れ木を集めた学生たちの作品 周囲の草花や枯れ木を集めた学生たちの作品

 2泊3日のメニューはもりだくさんだった。富士山麓にある青少年教育施設「国立中央青少年交流の家」に着いて、最初の夜はリスクマネジメントの講義を受け、翌朝は豚汁とご飯を自炊した。自炊の前には、マキ割りのナタの使い方も教わった。日中は、周囲の自然や人工の音に耳を澄ませて地図を作る「サウンドマップ」づくりや、落ちている草木などを使って食べたい料理を描く「森のレストラン」、細い木を持ち手にするためにナイフで削るスプーン制作。夕食はドラム缶によるピザづくりをコンテスト方式で行い、夜はキャンプファイアーとなった。最終日は、グループによるゲームの要素を取り入れたウォークラリーというメーンイベント。施設の周囲約2時間半で設定されたコースを、学生と一緒に歩いた。

写真:最終日のウォークラリー。林の中を歩く、歩く 最終日のウォークラリー。林の中を歩く、歩く

写真:途中でチームワークが必要なゲームにも挑む 途中でチームワークが必要なゲームにも挑む

写真:富士山に向かって。ゴールはもうすぐ富士山を正面に見ながら歩く登り坂。
ゴールはもうすぐだ

 施設でのプログラムも、委託先のNPO法人国際自然大学校(NOTS)がすべて仕切ってくれるので、こちらは後ろから見ていることが多かったが、だからこそ見えることもある。スタッフのリーダー、稲松謙太郎さんがたびたび、学生に「自分も教育者のひとりだから」と繰り返していたのを、何人の学生が気付いただろうか。キャンプファイアーの喧騒から一転、クラスごとに分かれた<分火会>では、静寂の中、小さな火の元に集まってスタッフ自身が語る半生は、進路を迷っている学生の心に直接響いたのではないか。
 教師になったら、時にはいやなことも厭わないでやる必要がある。教師になる覚悟が問われる研修なのだと思う。後から提出される学生たちのレポートが楽しみだ。

 さらに視点を広げても、こうした活動体験には大きな意味がある。教師の卵が野外活動もろくに経験しないまま教師になってしまったら、学校での自然体験活動はますますしぼんでしまうからだ。アウトドア派の家庭以外は、子どもたちの自然体験はいま以上に薄まっていくことだろう。

写真:(左)ナイフの使い方を教わる学生たち(右)スプーンの持ち手を削り、磨くナイフの使い方を教わった学生たち(左)は    
スプーンの持ち手を削り、磨く作業に没頭した(右)

 稲松さんによると、せっかくの野外活動体験でも、「危ないから子どもたちにナイフも火も使わせないでほしい」という保護者がいるという。稲松さんは、世間を震撼させた神戸の連続児童殺傷事件(1997年)の加害者と同世代で、ナイフの使用がより厳しくなった時代を中高生時代に経験している。だからこそ、こうした世の中の流れに敏感だ。
 国立の青少年自然の家や青少年交流の家の利用者も、残念ながら右肩下がりだ。少子化だけでなく、バス代の高騰やカリキュラムの過密化で学校の利用が減っている。運営する独立行政法人国立青少年教育振興機構では、明石要一・千葉敬愛短大学長らの研究部門が、野外活動の意義についての研究調査結果も出しているが、何でもスマホで済ませることができて、何はなくともスマホがあればいいという世代にどこまでアピールできているだろうか。
 同行した学生の中にも、トンボに逃げ回る学生もいれば、テントで寝ることに不満を漏らす学生もいた。自然体験活動を維持していくには、いまが正念場なのかもしれない。

中西 茂 教授
中西 茂(なかにし しげる)

玉川大学教育学部 教授
研究分野:教育政策、メディア

プロフィール:
1983年、読売新聞社入社。2005年から、解説部次長、編集委員として連載「教育ルネサンス」のデスクを務めた。『異端の系譜 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』(中央公論新社)を始め、家庭内暴力事件から学力問題まで様々な著作があり、複数の教育雑誌でも連載を執筆中。2019年2月まで中央教育審議会教員養成部会臨時委員。2016年4月から玉川大学教授として着任。現在に至る。

  • 掲載記事に関する免責事項
  • 一般情報について
    記載内容は著者個人の見解であり、所属組織の公式見解または代表する意見ではありません。
  • 著作権等の扱いについて
    玉川大学、玉川学園の公式ホームページの運用に準じます。詳しくはこちらをご覧ください。

関連リンク