これからの水泳授業を考える?

2018.01.05
鈴木 淳也

写真1 玉川学園屋内プール
写真2 指導用ブリッジ

玉川学園では,1972年に当時としては大変珍しい50mの屋内プールが完成し,年間を通して幼稚園から大学まで水泳の授業を実施しています。当時,国内には50mの屋内プールが僅かしかなく,歴代のオリンピック代表選手も練習に来たようで,まさに歴史あるプールと言えるでしょう(写真1)。玉川学園では,そのような恵まれた環境の中で,水泳の授業を「安全教育」として位置づけ,自己保全能力を高める指導を続けてきました。例えば,幼稚園から背浮きや立ち飛び込みなど,遊びの要素を入れながら行っています。大人でも少し怖いと感じる指導用ブリッジ(写真2)の上からの立ち飛び込みは,度胸試しでしょうか?それでも,多くの子供たちが,クラスメートや先生から応援を受けながら,飛び込んでいきます。また,着衣泳は,小学校1年生から継続的に水泳の授業で取り入れ,水難事故から自分の身を守る術を教えてきました。最近では,ペットボトルだけでなくプチプチ棒(気泡緩衝材)を使用しながら,背浮きや犬掻きなどを実践しています。
警察庁の水難事故統計によると,平成28年度の発生件数は1,505件,水難者は1,742人うち死者・行方不明者は816人と報告しています。その中でも,子供の発生件数は162件,水難者は217人うち死者・行方不明者は31人でした。特に,水難場所は,河川と海で7割を占めており,水難事故のほとんどが自然水域で発生しています。まだ,プールが整備されていない時代では,海や河川にロープを張った中で水泳指導を行い,足のつかない深い場所で「浮く・沈む・潜る」といった水泳の基本的な技術を身に付ける環境がありました。
小学校では,平成32年度より,新しい学習指導要領が全面実施されます。今回の学習指導要領の改訂は,高学年の指導内容で「ウ安全確保につながる運動では,背浮きや浮き沈みをしながら続けて長く浮くこと」と安全に関する内容が新設されました。日本は島国で,四方を海に囲まれ,多くの河川が流れる水に恵まれた国である一方で,自然災害が多い国です。現在は,多くの学校が,水深の浅いプールで授業をしていますが,そのようなプールであっても,泳法指導だけでなく,自分の身を守る術や救助の仕方など,水の安全に関する指導の必要性が考えられます。今回の「安全確保につながる運動」の導入によって,指導内容がどのように変わっていくのか。皆さんも,学校教育における「水泳」とスイミングスクールで教わる「水泳」の違いについて,一度,考えてみてください。

【参考文献】

プロフィール
  • 教育学部教育学科 助教
  • 日本大学大学院文学研究科 教育学専攻博士前期課程修了(教育学)
  • 専門はスポーツ方法学、体育科教育(水泳教育)
  • 学会活動:
    ・日本水泳・水中運動学会
    ・日本体育学会(体育方法専門領域)
    ・日本コーチング学会
    ・日本体力医学会
    ・水難学会
    ・教育実践学会
  • 職歴:
    ・日本水泳連盟地域指導者委員会 委員
    ・日本コーチング学会 庶務委員 幹事
    ・教育実践学会 事務局 幹事