新型コロナウイルス感染症感染拡大によるこころへの影響

2020.09.14
原田 眞理

今年は,世界中の人々が未知の感染症,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大きな影響を受けています。WHOが3月にPandemic(感染爆発・世界的流行などと訳されている)を宣言してからも,世界各地で感染者数・死亡者数の増加が伝えられています。
災害は自然災害と人為災害に分類されており,原因は多種多様とされています。自然災害の中に,水気象学系(洪水,干ばつなど)・地質学系(地震,津波,火山噴火など)・生物学系(疫病,SARS,新型インフルエンザなど)と分類があります。すなわち,感染症は自然災害の一つと考えられており,トラウマ,PTSDを引き起こす可能性が高いのです。
新型コロナウイルスだけではなく,これまでも人は知らない感染症などが感染拡大すると,不安・恐怖が高まり,さまざまな精神的な問題が生じていました。たとえば,今回はクルーズ船の医療活動に従事した人たちが非難・誹謗中傷,差別をされた,感染者が出た家に張り紙がされたなどのニュースも記憶に新しいですが,以前にもHIVウイルスや原爆被曝者,公害病,原発事故後の福島県民への言われなき差別などがありました。もし身近でそのような現象が生じた時,私たちはどのように行動すべきでしょうか。
さらに今回は,「隔離」という状況が大きなストレスを与えたのです。私たちは,隔離により,生活に非常に大きな不自由さを感じました。感染予防のために,できないこと・禁止されることはまるで甘い蜜のように誘惑的魅力的に見えてくるのです。それまで家でゆっくりしたいと思っていたはずなのに,外出できないことを苦痛に感じたり,感染に対して過度に恐怖を感じてネットやニュースで情報収集に熱中したり,妙に不安になり買い溜めに走ったり,イライラしてマスクをしていない人に強い批判をしたり,政府の自粛宣言は間違っていると力説したり(疑問に思うのは当然です)するのは,隔離によるストレスの反応です。例えのような行動まで至らずとも,不安・恐怖,怒り,不信などが渦巻き,在宅という閉塞感も重なり,私たちは本当に大変な日々を送ってきているのです。また感染者は悪者扱いされ,うっかり感染したら大変だという恐怖感を抱いている場合も多くありました。その結果,家庭内ではDVや虐待が増加しているという報道があり,宣言が解除した途端に,街に繰り出す人々の様子がテレビで映されていました。これらは明らかに,隔離へのこころの反応であり,我々は,隔離のストレスをもっと強く自覚すべきでしょう。
ITの画期的な発展がある現代,オンライン会議の方が便利だという意見も多く,オンライン飲み会も流行しました。しかし対面とネットを介してのやりとりには違いがあります。学校現場で対面と同様の授業を遠隔で行っても同じにはなりません。私たち人間は,五感を使ってコミュニケーションを行なっていると言われており,ICTやAIの発展が目覚ましい一方で,こころには機械では補いきれない部分があると私は感じています。今後さまざまな文明の利器の利点や欠点を理解して,私たちがそれらをコントロールし,社会の変化に伴い,新しい生活を作っていくことが大切なのではないでしょうか。

【参考文献】災害時の公衆衛生 國井修編:南山堂,2012災害対策基本法 1961 年制定

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東京大学大学院医学系研究科(心身医学講座) 博士(保健学)
    日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士
    公認心理師
    日本精神分析学会認定心理療法士
  • 専門は精神分析、臨床心理学、教育相談、医療心理学。災害関係のトラウマについて研究しているが、特に東日本大震災後の在京避難者支援を行っている。
  • 東京大学医学部付属病院分院心療内科、虎の門病院心理療法室、聖心女子大学学生相談室主任カウンセラーなどを経て現職。
  • 著書:『子どものこころ、大人のこころー先生や保護者が判断を誤らないための手引書』『子どものこころ―教室や子育てに役立つカウンセリングの考え方』『教育相談の理論と方法小学校編』『教育相談の理論と方法中学校・高校編』『女子大生がカウンセリングを求めるとき』『カウンセラーのためのガイダンス』など(含共著)
  • 学会活動:日本心身医学会 代議員、日本精神分析学会、日本心理臨床学会、日本教育心理学会 会員