Excelを使った台形公式の応用

2021.09.01
守屋 誠司

1976年頃からプログラム電卓の利用を前提とする数学教育内容・方法の研究が始まった。1979年からは、前提がPC利用に移行した。当時から、黒板とノートによる従来の授業方法では理解が難しい、又は、指導の時間が掛かる、手計算に時間が掛かる、そもそも手計算ができない数学があるなどの理由で、教育内容から外されていた数学が、PCを含むICTを利用すれば授業で扱えるようになることが明らかにされてきた。1980年代では実験的授業で実証してきたが、今はそれらの授業を普通に実践できる時代となった。

教授・学習方法としての教師や児童・生徒のツールとしての使い方が現在は推進されている。しかし、それだけで良いのであろうか? そこで、数学学習をより充実するためにExcelリテラシーを前提にした小学校から積分までの面積の指導内容を紹介したい。

皆さんは第5学年で台形の求積公式を覚えて、これまでに公式を使ったことがあるだろうか。まず、使ったことは無いであろう。では、何のために児童に教えるのか? 教師になるには、台形の求積公式の教育的意義を考え、再確認する必要がある。

意義の一つは、高校での積分に関係してくるのだが、小5から高3までの間の指導が空白になっている上、数Ⅲまで学習する人は少ないため、台形公式と積分の関係を認識できないでいる。そこで、不定形の面積を台形の積み重ねで近似して求めることを、小学校と中学校、高校で行い、最終的に定積分を近似計算する台形則への発展を示してみたい。その際に、単なる近似計算の方法を知るだけでは無く、死海やアラル海、オゾンホール、北極海の氷の面積の変化を教材として扱う。そして、台形の求積公式が環境問題の分析にも使えるという、数学と現実事象との関連を学ぶことができる。詳しくは、通信教育課程のテキスト『算数』「死海の面積」例に詳しく書かれているので参照してほしい。

ICTとしては、学校に普及しているExcelを使う。もちろんこれに類似する表計算ソフトでも良い。

小学校高学年

不定形を台形の積み重ねで近似する。不定形を平行線で区切り、個々の台形の面積を求めて合算する。

図1 死海の計測とExcel計算例
写真1 オゾンホールの面積を計算中

中学校

座標を導入して、台形を多角形で近似する。

図2 座標を使った多角形近似

不定形を方眼紙に写して、周上に点を取り、その座標読む。例えば、p1(x1,y1)、p2(x2,y2)とすると、面積s1=(y1+y2)(x1-x2)と求められる。xixi+1のとき si>0となるため、p1から半時計周りに不定形を一周するとプラスとマイナスの面積が相殺されて面積が求められる。

図3 山中湖の計測とExcel計算例(一部)

高校

不定形の周の座標から、台形近似による多角形と、はみ出した部分を円弧近似した弓形とに分けて求積する。詳細は省くが、円の方程式、行列と行列式、三角関数、逆三角関数、余弦定理など、大学入試でしか使ったことのない数学を、現実問題を解くために使うことになる。

図4 多角形と弓形による近似方法

さて、以上のExcelを利用した不定形の求積を指導する意味をまとめてみよう。

  1. 小学校5年で学んだだけで、それ以後一生使わないと思われている台形公式の使い道を学ぶ。
  2. 細かに切って求積し、それらを合算するという求積方法を学ぶ。後の区分求積や台形則の基本的な考え方を学んでいることになる。
  3. 座標を使って図形を処理するという解析幾何的方法の導入となる。
  4. 覚えても無駄だと思われている台形公式や入試でしか使わない余弦定理(他の数学も)が、現実世界の問題解決に使えることを学ぶ。
  5. Excelを利用することによって、計算に煩わされないで数値計算できる。
  6. Excelを利用することによって、逆三角関数でも数値解が求められる。

現在、よく学校で行われているICTの利用では、教科書会社が用意した既製の動画を見せたり、児童・生徒が書いたノートを書画カメラで映して発表させたりしている。表現力の育成や話し合い活動も良い。しかし、これだけでなく、算数・数学の授業では、頭脳の延長となるICT、特にPCを使うと、問題解決のために数学を使えること、さらに、PCを駆使してより高次な問題を解決できることを学ばせたい。

あれから、40数年。やっと、その時期が来た!

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東北大学博士課程情報科学研究科修了。博士(情報科学)。
  • 山梨県の公立小・中学校の教諭を勤めた後に、兵庫女子大学専任講師、山形大学助教授、京都教育大学教授を歴任。この間に山形県立保健医療大学、福島大学、大阪教育大学等の非常勤講師を務めた。京都教育大学名誉教授。山梨大学・東京福祉大学非常勤講師。
  • 専門は数学教育学で、教材開発や教育方法、数学的認知、比較数学教育、数学の文化史を研究する。
  • 数学教育学会理事。
  • 著書:『小学校指導法 算数』(玉川大学)編著・他多数。