自身の学びを見つめ直す一方法

2022.07.01
田畑 忍

「教育の方法と技術」「教育方法・技術論」を受講した方は、テキストに「インストラクショナルデザイン(以下、ID)」という用語が出てきたと思います。IDは、「教育・授業(Instruction)」を「設計(Design)」することで「効果を高め、効率よく、魅力的な授業にする」(1)ことを目指すものです。

先日、IDを中核とし、教育マネジメント等の修得を目的とした大学院出身の先生の発表を聞きました。そこでは、以下の「IDの前提」を示されました。本当は15個でしたが、ここでは7個のみを示します。なお、大学教育学会でしたので「大人」という表現が出てきます。

  • 人によって学習ペースは違うが、十分な時間をかければみんな最後には達成できる。
  • 学習課題の種類によって最適な学習環境の要件は異なるので、万能な教育方法は存在しない。
  • 人は失敗をしてその原因を追究しようとすることで学ぶので、安全に失敗させるのが効果的である。
  • 大人に最適な学習環境は子どもとは異なる。自分で選択・制御させて責任を持たせるのがよい。
  • 学習の評価は、総学習時間数(プロセス)ではなく、学習成果で行うべきである。
  • 教える努力がなされたことではなく、学びが成立した時に初めて「教えた」とみなす。「教えたつもり」と「教えた」を区別することが教育改善の第一歩である。
  • 大人相手の教育を小学校のようにしてはいけない。やる気を自分で制御させるように導く。

例えば、①はキャロルの時間モデルをもとにしたものですし、④はプログラミング学習につながる考え方です。また、⑥は成人学修に関わるものですし、⑬は意図的・成功的教育観に関するものです。

教員を目指している方の場合、上記の前提を学修者(学生)の立場から見ることも、教員の立場から考えることもできるかと思います。

発表後、私は⑮について質問をしました。やる気を自分で制御してもらうために、何をどこまで提供すればよいのかを聞きたかったからです。すると「ARCSモデルを利用してはどうか」と返答されました。

ARCSモデルはジョン・ケラーが提唱したもので、学習意欲を「注意(Attention):おもしろそうだ」「関連性(Relevance):やりがいがありそうだ」「自信(Confidence):やればできそうだ」「満足感(Satisfaction):やってよかった」で整理したものです。それぞれに下位分類(「A-1:知覚的喚起」「R-3:親しみやすさ」「C-1:学習要求」「S-2:肯定的な結果」等12項目)があり、学習意欲を高める工夫も提案されています。同モデルは授業改善に利用できるので、「私の授業を点検し、何を提供すれば良いかを考えればよいでしょうか」と質問したら、「それも良いが、学生がARCSモデルを利用して、自身の学び方ややる気について考えるのはどうか」と回答されました。例えば「C-1」の学習意欲を高める工夫には、「頑張ればできそうな・高すぎず低すぎないゴール設定」(1)があります。これをレポート課題で考えた時、みなさん自身がレポート作成のために「高すぎず低すぎない、いくつかの小さなステップ」を設定することも一方法ではないかということです。

みなさんは独学で夢に向かって学んでいますが、やる気の維持が困難な時もあると思います。そんな時は、ARCSモデルの観点から自身の学びを見つめ直してはいかがでしょうか。

  • (1)
    稲垣忠、鈴木克明(2015)『教師のためのインストラクショナルデザイン 授業設計マニュアルVer.2』北大路書房

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 三重大学大学院 教育学研究科学校教育専攻 修士課程修了。教育学修士。
  • 三重大学大学院 工学研究科システム工学専攻 博士後期課程修了。工学博士。
  • 専門は、教育工学、教育方法学。
  • 皇學館大学・名古屋女子大学非常勤講師などを経て現職。
  • 論文に『ステップごとの解説の作成と相互評価をとり入れた問題づくり授業』『ワークブックを用いた演習を支援するシステム-教師による直接指導と同等の支援を目的とした演習支援システム-』などがある。
  • 学会活動:日本教育工学会、コンピュータ利用教育学会、日本協同教育学会、大学教育学会 会員