栗山英樹監督と特別活動

2023.06.01
山口 祐一

 「選手同士でこうやるんだ、と。そうなってくれたらいいですよね。」WBC日本代表の栗山英樹監督の言葉である。WBC日本代表の優勝は感動を与えてくれた。栗山監督の指導者としての在り方には学ぶことが多かった。例えば、「一人一人の選手に監督自らが声をかけて招集したこと」「キャプテンをおかないこと」「あえて監督からは一切アプローチしないこと」などである。心理的安定性の高い集団をつくった結果、チームは一丸となって優勝を勝ち取った。心理的安定性の高い集団では、組織の中で対人関係や人間関係のリスクにおびえず、誰もが自由に発言できる。これこそまさに特別活動で目指す「望ましい集団活動」といえる。「望ましい集団活動」とは、平成20年8月『小学校学習指導要領解説特別活動編』には次のように示されている。

  • 活動の目標を全員でつくり、その目標について全員が共通の理解をもっていること。
  • 活動の目標を達成するための方法や手段などを全員で考え、話し合い、それを協力して実践できること。
  • 一人一人が役割を分担し、その役割を全員が共通に理解し、自分の役割や責任を果たすとともに、活動の目標について振り返り、生かすことができること。
  • 一人一人の自発的な思いや願いが尊重され、互いの心理的な結びつきが強いこと。
  • 成員相互の間に所属感や所属意識、連帯感や連帯意識があること。
  • 集団の中で、互いのよさを認め合うことができ、自由な意見交換や相互の関係が助長されるようになっていること。

 WBC日本代表チームは、最初から全員が優勝という目標を達成する意欲が高い集団である。偶然出会った30数名から始まる〇年△組とは異なる。しかし、この条件の下で、私たちは「望ましい集団」づくりを目指す。
 ここでは、小学校学級活動の取組を考えてみたい。
 まず、「学級の目標づくり」からである。4月に新たな出会いがあり、担任として思いを伝えながら学級づくりが始まる。2~3週間たって児童が学級に慣れてきたころに学級活動(3)の授業で「〇年△組をどんな学級にしたいですか」と問いかけて、一人一人の思いを黒板に掲示する。そこから、一人一人の思いを大切にしながら整理して全員の思いが込められた学級の目標ができる。それを見ながら「みんながつくった目標だからみんなの力で達成できるように頑張ろう」という責任感と意欲を高める。さらに、学級の目標達成に向けて一人一人に具体的な努力目標をつくらせる。担任は、授業や当番活動など日々の生活や運動会など学校行事の際にも、目標を意識させ振り返りを行わせる。随時、達成できたことは認め称賛し、課題にも気付かせる。
 次に、学級活動(1)「学級会」の取組である。栗山監督に通じるものがあるが、「学級会の醍醐味は、教師が見守る中で、児童が自分たちで議題を集め、話し合って合意形成をして集会活動を実践する姿を見ること、さらに、振り返りを生かしてよりよい活動を目指す姿があればなおよい。」と考える。その第一歩は議題と提案理由の設定である。児童から「みんなで室内ゲームで遊ぼう」という提案があったとする。その議題でよいか、学級全員で確認する。同時に、提案理由が重要である。「なぜ、それをするのか」「それをすることで、学級がどのようによくなるのか」を確かめる必要がある。児童は、「楽しいから」と言う。教師は、「楽しいというのは、どうなること?」「そうすると、どのようないいことがあるの?」などと問いかけて、活動の目的意識を高める。その結果、提案理由は「〇年△組のみんなで一緒にゲームをして、今よりもっと仲良くなりたいから」というように具体的な内容になる。すると、活動の内容のイメージが具体的になり、話合いが分かりやすくなる。
 話合いでは、安易に多数決に頼ることなく、一人一人の意見を大切にする。意見には理由を付けることで互いの思いを理解しながら合意形成を図る。このように児童が自分たちの力で試行錯誤しながら頑張る姿をあたたかく見守る。途中で、教師が親心と称してまとめる方向を示したり、指示したりしない。
 話合いの後には、振り返りを行い、友達を大切にした発言や建設的にまとめた意見などを取り上げ称賛するとともに課題にも気付かせる。その際にも、児童の思いを引き出すような問いかけをする。
 集会活動「室内ゲーム」が終了した後にも、振り返りを行う。活動を見守りながら、気付いたことを基にして提案理由を意識させながら、頑張った友達や今後改善することなどを全員で確かめる。
 以上のように、児童が自分で考え、話し合い、合意して、集会を実践し、振り返り、よりよい活動を目指していけるようにする。教師は、「育てる」のではなく児童自らが「育つ」ようにする。これは、特別活動の「なすこことによって学ぶ」という指導原理を踏まえて、児童のPDCAサイクルを活性化することになる。
 最後に、『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)解説特別活動編』P141から引用する。
「なお、・・・児童の少々の失敗に直ちに干渉したり、援助したりするのではなく、温かく見守り、期待し、・・・自分たちで考え、自分たちで判断し、自分たちで生活上の諸問題を解決できるようにする必要がある。」

プロフィール

  • 所属:教師教育リサーチセンター教職サポートルーム
  • 役職:客員教授
  • 最終学歴:東京都立大学法学部法律学科卒業
    玉川大学通信教育部にて小学校全科教員免許状取得
  • 専門:特別活動
  • 職歴:
    ・東京都江戸川区立小学校教諭
    ・東京都墨田区立小学校教諭
    ・東京都中央区立小学校教諭
    ・東京都江戸川区立小学校副校長
    ・東京都江戸川区立小学校校長
    ・元東京都小学校特別活動研究会会長
  • 著書:
    「小学校教育課程実践講座特別活動」(ぎょうせい)
  • 学会活動:
    日本特別活動学会所属