発表を大切にした思考ツールでの学習指導

2023.07.01
田畑 忍

思考ツールは、「分類する・比較する・関係づける・順序立てる・構造化するなど、ものごとを批判的、複合的に考える際に、その考えを整理して見えやすい形で表現するための道具」(1)です。「考えることを促すための道具」と表現される時もあります。
頭の中だけで考えるのには限界があります。思考ツールを用いた学習指導では、例えば児童生徒が作文を書く前に、まずは頭の中で考えていることを短い文章などで書き出します。こうすることで、自分の考えを整理することができ、より伝わりやすい文章を書くことができるようになります。また、思考ツールは教師が板書をする際、児童生徒の多様な意見を分類したり、わかりやすく提示したりする時にも役立ちます。

バタフライチャート
Yチャート

思考ツールには、例えば、物事を多面的に見る時に役立つ「バタフライチャート」、アイデアを出したり分類したりする時に役立つ「Yチャート・Wチャート」、物事を比較したり整理したりする時に役立つ「ベン図」などがあります。紙ベースの場合、児童生徒は思考ツールの描かれた用紙を利用しますが、1人1台の学習用端末が配布されてからは、思考ツールをデジタルで利用する実践も増えてきました。例えば、Google for Education(2)を利用した実践やロイロノート・スクール(3)を利用した実践などです。デジタルの実践では、例えば共同編集で意見を出させたり、意見をまとめさせたり、発表させたりしています。また、まとめる途中の段階で別の思考ツールを利用して、考えをより深めさせようとする実践もあります。
私は、「教育の方法と技術」や「教育方法・技術論」などの授業を担当しています。その際、思考ツールについても説明していますが、実際に思考ツールを作成する授業もあります。
そこで大切にしているのは「発表」です。紙ベースの場合は、思考ツールの描かれた用紙に具体的な意見などを直接書き込むのではなく、付箋に書いて作成してもらっています。その実践では、「付箋を貼ってその内容を説明する」→「次の付箋を貼ってその内容を説明する」→…という流れで発表するように指示しています。また、PowerPointを利用したデジタルの場合は、各付箋にアニメーション(「開始時」を「クリック時」にしたもの)を付けたテンプレートを配布し、それを利用して作成・発表するように指示しています。

PPで作成した思考ツールの例

これらの理由は、話のポイント(=付箋)を強調しながら発表させるためです。
「主体的・対話的で深い学び」を考えた時、発表で自身の考えなどを伝えることはとても大切です。なぜならば、わかりやすく発表することで、適切なフィードバックを得られる可能性が高まるからです。それにより、深い学びにつながる可能性も高まると考えられます。
ICTを利用することにより、従来と比較して情報共有などがしやすくなってきました。だからこそ、個人やグループで検討したことをよりわかりやすく伝えさせるためにはどうすれば良いのか︖について意識を向けることが大切ではないかと思います。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 三重大学大学院 教育学研究科学校教育専攻 修士課程修了。教育学修士。
  • 三重大学大学院 工学研究科システム工学専攻 博士後期課程修了。工学博士。
  • 専門は、教育工学、教育方法学。
  • 皇學館大学・名古屋女子大学非常勤講師などを経て現職。
  • 論文に『ステップごとの解説の作成と相互評価をとり入れた問題づくり授業』『ワークブックを用いた演習を支援するシステム-教師による直接指導と同等の支援を目的とした演習支援システム-』などがある。
  • 学会活動:日本教育工学会、コンピュータ利用教育学会、日本協同教育学会、大学教育学会 会員