「研究」と「修養」

2023.08.01
今城 徹

教育基本法には、「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。」とあります。また、教育公務員特例法には、「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」「教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。」と、研修(研究と修養)の義務と権利について記されています。

どの業種においても「研修」は重要ですが、これからの変化の激しい、予測困難な時代を生きる子供たちの「生きる力」を育成していく学校・教員にとって「研修」は特に重要なものであると言えます。言い換えれば、この社会の変化や児童生徒及び保護者・地域社会のニーズに、柔軟に対応できる資質・能力を身に付けるために、常に学び続ける態度が必要となります。だからこそ、教育公務員には、研修の義務と権利があるのです。

では、どのような研修が位置付けられているのでしょうか。法定研修の「初任者研修」「中堅教諭等資質向上研修」と法定研修以外の「2年次・3年次、5年次、20年次等研修、経験年数に応じた研修」、「教務主任・生徒指導主任研修等、職能に応じた研修」、「教科指導法、教育相談、生徒指導等、専門的な知識・技能に関する研修」、「長期派遣研修」等、国や都道府県教育委員会が実施する研修、その他、様々な研究団体が主催する研修と、多様な研修機会が設定されています。これらの研修会を含めて、研修の種類は、「自己研修」、「校内研修」、「校外研修」に分類できます。この中でも、「校内研修」は、教員にとって重要な研修機会です。一言で「校内研修」といっても内容や方法は様々あり、「校内研究会」として研究テーマを決めて全教員で取組むものや、「生活指導研修」、「教育相談研修」、「安全教育研修」、「実技研修」等があります。

これらの校内研修を含めて、校内OJTの推進を方針として打ち出す都道府県が多くあります。OJTとは、「On-the-Job Training」の略で、各職場での実務経験を通して、職務遂行に必要な知識や能力、技術などを身に付ける教員の資質・能力向上策の一つです。例えば、生徒指導主任による安全指導・安全点検の重要性やポイントについての研修、保健主任や養護教諭、栄養教諭による食物アレルギーについての研修、体育主任による体育実技研修、特別活動主任によるキャリア教育に関する研修、または、教頭の若手教員や中堅教員に対して行う指導法研修等、多岐にわたります。校務分掌上の役割や教員の得意分野により指導者を決めて、教員同士が学び会う機会を設定していきます。放課後や長期休業中に研修会として行う場合や日常的に職務中に行う場合、内容・方法は学校によって様々です。いずれにしても、思いつきで行うのではなく、学校として、個々の教員として計画的・組織的に行うことで教員の資質・能力向上を図ることをねらいとしています。一般的には、経験豊かな上司や先輩教員などから若手教員が学ぶケースが多いと言えますが、研修内容によっては、若手の教員が講師となる場合もあります。特に、ICTスキルに関する内容では、若手教員がベテラン教員を指導する場面が多く見られます。

ある小学校における「教育実習生受け入れを通したOJT」について紹介します。計画を立てるのは教務主任、全ての教員がOJT対象として、教育実習生の指導に関与するというものです。この小学校は、毎年多くの教育実習生を受け入れています。実際の教育実習生指導担当教員は、ベテランの教員とは限らず、5年から10年程度経験した中堅教員です。ベテラン教員は、その中堅教員の教育実習生指導について指導する立場に立ち、5年未満の教員は、教育実習生指導教員の指導について学ぶ立場をとります。また、全ての教員が、自らの校務分掌や得意分野について教育実習生に対する指導内容を決め、指導に当たります。自らの授業を教育実習生に積極的に公開し、実習生の反応や感想を基に自らの授業評価を行ったり、教育実習生の授業を参観して成果と課題を明確に伝えることを通して授業を観る力、評価する力を高めたりする等、学習指導力に関する内容や、学級経営、生活指導、特別活動、健康教育、校務分掌、家庭・地域連携などについて学校として組織的に教育実習生指導に当たることで、学校の組織力及び教員の資質・能力向上を図るというものです。

生涯学び続ける教員が、これからの社会を担う人材を育成するために必要不可欠な存在なのです。学校は、教育を受ける子供たちを育てる場であると同時に、教育を施す教員自身を育てる場でもあるのです。

プロフィール

  • 所属:教師教育リサーチセンター教職サポートルーム
  • 役職:客員教授
  • 最終学歴:二松学舎大学 文学部 国文学科
  • 専門: 体育科教育、初等科教育
  • 職歴:
    ・茨城県取手市立小学校教諭
    ・東京都立川市立小学校教諭
    ・東京都三鷹市立小学校教諭・教頭・校長
    ・東京都東大和市教育委員会学校教育部参事
    ・東京都小金井市立小学校校長
    ・公益財団法人日本学校保健会委員
    ・元東京都公立小学校長会副会長
    ・元全国連合小学校長会広報部長