人と人とのつながりとひろがり(続編)

2023.10.01
湯藤 定宗

「通信からの風」において「米国アーカンソー州からの教員3名を5日間小・中学校で受け入れていただけることになりました。この原稿の締め切りが、プログラム実施前ですので、この場で報告できないのが残念ですが、今後は期間の拡大や双方の教員派遣の実現に向けて、微力ながら国際交流のお手伝いができれば」と書いたのが、2022年10月1日でした(https://www.tamagawa.jp/correspondence/about/column/detail_20958.html)。当該プログラムのその後について3つの報告と1つのエピソードの紹介をしたいと思います。昨年10月は新型コロナウイルス感染症が第5類に移行する前でしたが、Friendship Aspire Academy Arkansas(以下F.A.A.A.)に所属する教員3名が予定通り、神奈川県内の小学校・中学校で5日間の教員研修を行いました。
報告の第一は、運動会についてです。最終日に教員3名はA小学校での運動会に参加しました。コロナ禍でしたので、保護者の人数制限や学年ごとの開催にはなりましたが、大いに盛り上がりました。運動会の光景は、我々日本人にとっては珍しい光景ではありませんが、保護者等が多く参観する日本の運動会は米国の教員3名にとっては非常に珍しく、貴重な体験になったようです。教室での授業を参観するだけでは理解できない日本の学校文化を理解してもらう機会になりました。
第二に、日本の治安の良さについてです。最終日に教員の1人が財布を落としたとの連絡が入りました。その教員の財布には現金のほかに運転免許証や各種カードも入っているとのことでした。その日にその教員が立ち寄った場所に連絡をしたところ、お店で保管されていることが分かり、後日、その財布を彼に無事に届けることができました。日本のことがますます好きになったとの連絡を後日彼から受けました。
第三に、双方の教員派遣実現についてです。日本から米国への教員派遣も当該自治体の教育長のリーダーシップと様々な関係者の尽力により実現しました。具体的には、2023年8月に神奈川県の中学校英語教員1名が、F.A.A.A.が運営するチャータースクール(Charter School)において10日間の研修を受けました。チャータースクールとは端的には、学校運営の自由度が一般の公立学校よりも高い公立学校であり、1990年代初期以降開校され始め、2023年現在およそ7,000校が開校されています。研修を受けた教員によると、非常に多くの学びを得たと同時に、改めて日本の教育の良さについても再確認できたとの報告を受けました。ちなみに、米国でのホームステイ先は、上述の財布を無くした教員宅だったそうです。どういう事情で彼が引き受けてくれたのかは分かりませんが、日本で最終日に財布を無くしたが無事に戻って来たエピソードを何度も話してくれたそうです。
2023年10月2日から6日間 F.A.A.A.の別の教員2名が同じ小・中学校を再び訪問予定です。今回は最終日(10月7日)にA小学校で音楽会が計画されていると聞いています。昨年度の運動会同様、日本の学校文化の一端を理解してもらえる機会になればと思います。
最後に一つエピソードを紹介します。2名の米国教員の研修期間中のホームステイ先の募集とお願いを当該自治体から行ったところ、11の家庭から受け入れ可能との返答があったと聞いています。こういったボランティア精神が人と人とのつながりとひろがりを持続可能なものにすると強く思います。2023年10月時点においてまだコロナの不安が一掃される状況を迎えてはいませんが、世界はつながりとひろがりを求めて再び動き出しています。皆さんができる国際交流にはどんなものがありますか。無理のない範囲で動き出せば、新たなつながりや学びを獲得することができるかもしれません。

プロフィール

  • 所属:教育学部教育学科通信教育課程
  • 役職:教授
  • 最終学歴:広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。
  • 専門: 教育経営学
  • 職歴:
    ・広島大学教育学部助手(2000年度)
    ・岡山短期大学幼児教育学科(2001~2002年度)
    ・岡山学院大学人間生活学部(2003~2005年度)
    ・帝塚山学院大学文学部(2006~2013年度)
    ・玉川大学教育学部(2014年度~現在に至る)
  • 著書:
    ・『学校教育制度概論【第三版】』(編著、玉川大学出版部、2022年)
    ・『学びたい beyond』(編著、デザインエッグ社、2020年)
    ・『教育課程編成論【新訂版】』(共著、玉川大学出版部、2019年)
    ・『子どものために「ともに」歩む学校,「ともに」歩む教師を考える』(共著、あいり出版、2019年)
    ・『講座現代の教育経営1 現代教育改革と教育経営』(共著、学文社、2018年)
    ・『公教育の問いをひらく』(共著、デザインエッグ社、2018年)
    ・『学びたい Unlearn』(編著、デザインエッグ社、2018年)
    ・主要論文として「教育経営研究の有用性と教育経営研究者の役割」(単著、日本教育経営学会論文誌、60号、2018年)などがある。
  • 学会活動:
    日本教育経営学会、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会 会員