声を上げることー大川小学校から学ぶことー

2023.11.01
原田 眞理

昨年10月に本学UCHにて、原田ゼミ主催の特別講演会「東日本大震災から学ぶ ―宮城県石巻市立大川小学校のお話−」を行いました。大川小学校に当時通っていた方のご遺族でもある只野英昭さんと、訴訟を担当した吉岡和弘弁護士と齋藤雅弘弁護士、そしてフロアには、ドキュメンタリー映画、「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘ったひとたち」の寺田和弘監督もいらしてくださいました。(その詳細は教育活動レポート1)をお読みください。)
その際、やはり現地に来てほしいという講演者の方々のお気持ち、自分の目で学んだことを確かめてほしいという私の思い、行きたいという学生の願いがあり、今年の8月に大川小学校にゼミ研修で行くことができました。
生きていれば誰でも心に傷を負うのですが、私たちは生きていると、ある日突然想像もしないようなことに出会うことがあります。大川小学校のご遺族は、我が子を失う、という耐え難いことが起き、さらにその後理不尽なことが連続して起き続けました。あの日何があったのかを知りたい一心で、不誠実な態度や行為に深く傷つけられながらも、訴訟となり、やっと裁判官から心ある判決をもらえたということが、ある意味では心を理解された、人の尊厳を守ってもらえた体験となられたのではないかと考えています。
大川小学校は、石巻駅から1時間くらいのところにあります。実際に自分が被災地に赴き、見学することの重要さについては昨年の通信の風「復興とはなにか?」で述べました。
あの日のこと、その後のこと、いろいろな事前情報や知識2)もありましたが、「こんなに裏山が近かったの?」「どうして?」という呆然とした学生の言葉が印象的でした。
教員は子どもの命を預かる、という責任もありますが、震災当日、そしてその後に何が起きたのか、皆さんにも知識を持っていただき、自分の命も守ってほしいと思います。
その後吉岡先生がお話しくださったエピソードをご紹介します。
仙台の海辺の学校に赴任して数年目の女性教員のエピソードです。3月9日震度5の地震が発生した際にそれぞれが避難場所を考えるなど混乱したことについて、この教員は校長先生に直接、学校の今回の地震への対応は見直すべきだと伝えたそうです。その後、3月11日の震災が起こり、校内では、整然とした対応がなされ、事故も生じることなく終わったそうです。そして、校長はこの教員に「あなたから指摘を受けた際、正直不快だったが、そのおかげで、皆が助かった、ありがとう」とおっしゃったそうです。
このエピソードのポイントは避難訓練や防災教育が大切だということだけではありません。校長先生に直接何かを提起する勇気や資質を持った若手の教員の存在です。また視点を変えると、それを許す教員組織の環境を校長先生たちが構築していたとも考えられるでしょう。吉岡先生の「ただ俯いているだけの教員にはならないでほしい」という言葉が強く心に残っています。
いじめの隠蔽も同じです。日常から、教員一人ひとりが率直に意見を言える教員組織、環境が重要なのではないでしょうか。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東京大学大学院医学系研究科(心身医学講座) 博士(保健学)
    日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士
    公認心理師
    日本精神分析学会認定心理療法
  • 専門は精神分析、臨床心理学、教育相談、医療心理学。災害関係のトラウマについて研究しているが、特に東日本大震災後の在京避難者支援を行っている。
    東京大学医学部付属病院分院心療内科、虎の門病院心理療法室、聖心女子大学学生相談室主任カウンセラーなどを経て現職。
  • 著書:『子どものこころ、大人のこころー先生や保護者が判断を誤らないための手引書』『子どものこころ―教室や子育てに役立つカウンセリングの考え方』『 グローバル化、デジタル化で教育、社会は変わる』『改訂第2版教育相談の理論と方法』『女子大生がカウンセリングを求めるとき』『カウンセラーのためのガイダンス』など(含共著)
  • 学会活動:日本心身医学会 代議員、日本精神分析学会、日本心理臨床学会 会員