学芸員として就職するためのアドバイス

2023.12.01
菅野 和郎

 筆者は日頃から、学芸員の公募情報をチェックするように努めている。それを踏まえ、学芸員として採用されるにはどうしたらよいか、若干のアドバイスをしてみたい。

 現在、全国286大学(うち通信制併設等は11校)で「学芸員となる資格」(以下「学芸員資格」)が取得でき、他に放送大学と数校の短大・専修学校で、博物館に関する科目が開講されている1)。博物館関係者の間では、毎年約1万人の学生が学芸員資格を取得するが、学芸員採用率は1%程の狭き門であろう、とよく言われる。そのことだけで、学芸員としての就職を諦めてしまう者もいるかもしれない。
 大学対象の調査で、2004年度に回答261校で10,329名が資格取得2)、2020年度は回答180校で4,825名が資格を取得し、124名が学芸員採用された3)というデータがある。これらは悉皆調査ではないが、新規資格取得者数は、近年減少傾向にあるのかもしれない。またこの採用実績は新卒者で、他業種からの転職、実務経験者の中途採用や内部登用・異動等、社会人の例は含まれていないであろう。
 仮に毎年1万人の新規資格取得者が加わっても、学芸員を進路希望とし、求職までする者は、一部にとどまるはずである。また多くの地方公共団体では、文化財保護行政の担当者として、学芸員有資格者(埋蔵文化財との関係から大半が考古学専攻)を採用している。さらに私立博物館は、人脈等による非公募型の採用もあり得よう。学芸員採用は母数をどう考えるかにもよるが、少なくとも実際の志望者数に対する採用者数の割合は1%よりもかなり大きいと考えられ、分野によっては地域を選ばなければ、採用の門戸はやや広いはずである。近年、博物館が急増したバブル景気の頃に採用された学芸員が、定年を迎える年齢になりつつある。また1975年の文化財保護法改正以降、市町村に配置が進んだ文化財の専門職員も、全体では減少傾向だが、順次世代交代している。こうした事情等で、かつてない数の学芸員の公募情報を見かける。
 とはいえ本学では教職と異なり、学芸員に関して組織的な就職支援は皆無である。学芸員になりたければ、全て自分自身で動くほかない。学芸員を目指す者は、採用情報把握の努力から始めることになるが、今はインターネットで検索が可能であるし、学芸員の採用情報が集まるウェブサイトなども、存在するようである。

 学芸員の採用にあたり、学芸員資格と並び、大学での専攻分野等、当該館で収蔵するモノ(資料)に関わる領域の知識・技術等の専門性が求められ、採用試験でも出題される(博物館教育等が専門の学芸員採用は、稀である)。この専門性が、モノを見る眼や確実なモノの扱い、調査研究をはじめとする博物館活動の基礎になるからである。さらに採用時に実務経験が求められる場合もある。専門分野を示さない募集でも、採用側は何らかの分野を想定しているはずで、応募の際、専門のミスマッチに気を付けなければならない。専門性重視の点で、大規模な理系の博物館などは、博士学位を応募要件とし、応募時に学芸員格を所持してればなお良いが、資格は不問か、採用後に取得せよとする例も少なくない。
 学芸員資格のための大学での博物館学系科目は、専門性の基盤の上にそれを活用しつつ、博物館というバでモノやヒトにどう対するかを学ぶもの、とも言い得よう。率直にいって、資格だけで学芸員として採用されるのは、難しい場合が多いであろう。同じ学芸員募集に応募するライバルに、大学院修了者や、キャリアアップを目指す現職学芸員もいるかもしれないのである。

 数年間専門教育を直接受ける通学課程と異なり、通信教育では資格は取得できても、モノに関わる専門性、特に技術面を身に付けるにはシステム上困難がある。そのため学芸員コースの受講者は、既に他大学等で何らかのモノに関わる分野を専門に学んだ後に、通大で学芸員資格を取得しようとする者が多いのであろう。学芸員を仕事にしたいのであれば、まずは大卒レベルでも良いので、自分の専門はこれだと言えるものを、ぜひ持っていてもらいたい(もちろん「専門バカ」では困るのであるが)。採用の応募書類に、業績一覧が含まれることもある。学部生レベルでは難しいかもしれないが、欲を言えば活字化されたものや口頭発表、文化財調査の参加歴等、何らかの実績があればなお良い。
 加えて豊富な博物館体験は、ぜひ望みたい。さらにデリカシーに欠けるとの批判を恐れずに言うと、担当する展覧会の開幕近くなど、学芸員はどうしても激務となる。それに耐えられるよう、健康であってほしいと個人的には考えている。

 毎年度の第4四半期には、各自治体で次年度予算案が固まり、そこに人件費が計上されたことを受け、多数の会計年度任用職員の学芸員募集が始まる。ただしこれは1年任期の非常勤で、再任も通算3~5年が上限というのがほとんどである。じっくりと腰を据えて業務に取り組むべき学芸員を、このような有期非正規の形で任用する例が増えているのは、本来的に望ましくない。待遇面も自身の生計や将来計画が立てにくいような場合もあろうし、雇い止めで使い捨てにされる可能性も否定できない。正規職と比べて条件的に厳しく不安定で、是非にとお勧めできるものではない。しかし、どうしても博物館で働きたい、学芸員としてのキャリアをスタートさせたいという場合は、まずはこうした募集に応じてみるのも、ありかもしれない。現場の仕事を通して学び、身に付けられることも多い。その実務経験をもとに、次のステップを目指すのも良いであろう。

 通大生は基本的に社会人で、今後の職業選択は、通学制の新卒学生のそれとは当然事情が異なる。そもそも学芸員資格取得の動機・目的も様々であろうし、博物館勤務以外で資格の活用を考えているのかもしれない。しかし、意志と機会があれば、学芸員の採用選考に挑戦してみるのも良いであろう。本稿がそのために多少でも参考になれば幸いである。通大生の場合、資格取得後の職業まで大学で把握できないが、読者の中から学芸員が誕生し、玉川大学教育博物館と博物館同士、また学芸員同士の付き合いができる日が来ることを、楽しみにしている。

  • 1)
    文化庁「学芸員養成課程開講大学一覧」
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/about/daigaku/
    2023年10月25日アクセス
    私立大学通信教育協会『2023大学通信教育ガイド大学・短大編』
    https://www.uce.or.jp/uni_e_book/?pNo=36
    2023年10月25日アクセス
  • 2)
    丹青研究所編『平成19年度文部科学省委託事業 学芸員養成カリキュラムに係る調査研究報告書』 丹青研究所 2008年 p.168
  • 3)
    全国大学博物館学講座協議会編ヵ『全国大学博物館学講座開講実態調査報告(第13回)』 全国大学博物館学講座協議会 2022年 pp.32-43

プロフィール

  • 教育博物館 教授
  • 最終学歴:青山学院大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程標準修業年限満了退学
  • 専門: 博物館学、考古学
  • 職歴:1996年玉川大学文学部助手
    教育博物館助手、講師、助教授・准教授を経て2018年現職
  • 学会活動:全日本博物館学会、日本展示学会、日本ミュージアムマネージメント学会、国際博物館会議、日本考古学協会 会員