多くの人がレッテルを貼っているとき

2024.02.01
渋谷 行成

「渋ちゃんには大学の先生なんて絶対無理、やめとけば」
8年前の3月31日、某区の児童福祉施設で行われた私の送別会で「渋ちゃんに大学の先生なんて絶対無理だから辞めたほうが良い」と真顔で心配してくれた高校生は「誰からも期待され心配されたことがない」とつぶやいていた当時小学生だったA君だった。渋ちゃんに出会っていなかったら、大学生になろうなんて思ってもいなかった」と手紙をくれたBさんも「大人なんて信用してない」と言っていたひとりだった。
子どもたちの手作りのケーキ、送別会の主役の私のケーキが大きいのと苺とチョコがあることに納得できず「渋ちゃんのケーキだけ大きくてずるい交換して」と繰り返し、みんなに「少しは空気を読めよ」と呆れられていた高校生のⅭ君は「子ども食堂で渋ちゃんの作ってくれた生姜焼きとチャーハンが、僕の夕食の風景を変えてくれた」となぜか私ではなく区役所に手紙を送ろうとして職員に止められていた。
敵か味方か損か得か、その前提でしか大人との関係構築の仕方を体験してこなかった子ども40名が、児童福祉施設の施設長だった赤の他人の私のために集まってくれ、明日も続くかのようないつもの時間を演じてくれている。

多くの人がレッテルを貼っているとき、果たしてそうだろうかと思うこと、多くの人が見て見ぬふりをしているとき、その子どもの隣に座り続けること、運悪く私と出会ってしまった子ども誰ひとり置き去りにしないこと、こうして、少しかっこつけて話す癖(子どもの前では言いませんが)のある私のレッテルを、子どもたちが剥がしてくれ、私の隣に座り続けてくれ、私を置き去りにしないでいてくれていた。そんな時間の終わりを噛みしめ、子どもたちにとって出会って良かった大人(支援者)になろうとしていた私にも出会って良かったと思える子どもたちの存在があったこと、大学での終わり(退官)では、さすがに「こんな寂しい思いをするはなく、これが最後だろう」と思っていました。
この原稿を書いている12月23日、11月に実施されたスクーリングの授業評価アンケートが届きました。同時に6月のスクーリングの皆様のことも思い出し、何故か8年前の送別会での寂しさを思い出しました。

スクーリングで出逢った皆様お元気ですか?
「最初の授業でお約束したこと(到達目標)は守られていましたか?」「子どもたちが出会った良かったと思える教師や大人になるための参考になりましたか?」「この授業に出会って良かったと思っていただけましたか?」
地声が大きいのに、マイクの音量が10になっているのに気が付かず、皆様が熱心に聞いてくれているので、さらに大きな声で講義してごめんなさい。休憩時間や授業の後も遅くまで多くの方々が質問をしてきてくれ、その後の時間でも楽しい時間を過ごせたこと感謝しています。皆様が「退官するのはもったいない」(通学の学生も言ってくれたのですが)と言ってくださったこと嬉しく、8年前に感じた「終わりの寂しさ」を感じてしまいました。

突き詰めると「どんな人に出会って別れるか」かもしれません。
「誰からも心配されたことがない」とつぶやいていたA君が他者(私)のことを真剣に心配している・・それは、A君のつぶやきを単なる愚痴で終わりにせず、職員たちがA君のことを13年分期待し心配した結果でもあるのです。

子どもど真ん中を掲げる「子ども家庭庁」の理念の対象は「全ての子どもに」となっています。「全ての子どもに」とは、誰ひとり置き去りにしないということです。誠実かつ謙虚な姿勢や学び続ける姿勢を持つ皆様なら、出会った子どもと、損か得かからでは生まれない時間を共有し、出会えて良かったと思ってもらえる大人(支援者)になれると信じています。皆様と出会えたことに感謝するとともに、スクーリングの関係者の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

プロフィール
  • 教育学部 乳幼児発達学科 教授
  • 専門は、社会福祉、子ども家庭福祉
    1995年―新宿区社会福祉事業団 入職
    2006年―新宿区社会福祉事業団 新宿区立かしわヴィレッジ 施設長
    2016年 新宿区社会福祉事業団 退職
    2016年 玉川大学 教育学部 乳幼児発達学科 教授(現在に至る)
    非常勤
    2002年―2007年 日本社会事業大学 非常勤講師
    2016年―2017年 立教大学 コミュニティ福祉学部 非常勤講師
  • 著書:
    「子どもの養護」                    (2024     建帛社)
    「これからの時代の保育者養成・実習ガイド」       (2020    中央法規)
    「障害児の保育」                    (2020 ミネルヴァ書房)
    「児童福祉司等の義務研修テキスト」           (2018 株式会社 童夢)
  • 学会活動:
    「日本社会福祉士学会」
    「日本子ども虐待防止学会」
    「日本児童養護実践学会」
    「日本保育士養成実践学会」