Incidental Learning(偶発的な学び)

2015.03.12
湯藤 定宗

私は20 年ほどアメリカ教育の研究をできる限り教育現場に足を運びながら継続してきた。現在の主な研究テーマは,チャータースクール(以下CS とする)と学校評価である。
CS はアメリカでは認知されてきたが比較的新しい公立学校であり,日本では依然それほど知られていない(CS の概要は後述する)。CS をテーマにしようと考えた最初のきっかけは,『学校の再生をめざして3』(東京大学出版会,1992 年)に収録されている故黒崎勲「父母の学校参加の運動と理論」を読み,アメリカにおいて保護者が公立学校に深く関わっている教育実践に衝撃を受けたことであった。
私は滋賀大学教育学部を卒業後,1993 年4月に滋賀大学大学院に進学した。同時期に故稲垣忠彦先生が東京大学を定年退官されて滋賀大学に着任された。その大学院の授業で指定された教科書が『学校の再生をめざして』であった。稲垣先生の授業を受けていなかったら,黒崎先生の論文には出会わなかったかもしれない。“incidental(偶発的)”な学びの重要さを痛感させられた出来事である。
その後,広島大学大学院に移り,教育経営学の研究室で6 年間お世話になることになった。指導教官の岡東壽隆先生は,大学院生がやりたいと思うテーマを尊重される方で,「大学院修了後も継続できるようなテーマを自分で選ぶように」との指導を頂いた。
黒崎勲先生の書物に出会ってからアメリカの教育制度,特に学校選択制度に興味を持っていた私は,修士課程時代はアメリカの学校選択制度に関する英語論文を苦労しながら1年半ほど読みあさっていた。そろそろ修士論文を仕上げなければいけない時期に,見たこともない単語が目に留まった。それが“Charter School” であった。早速調べてみると,ミネソタ州で1991 年に州法として立法化された公立学校選択制度の一形態で,従来の学校選択制度と比較して,学校経営の自由度が高く,学校を保護者や児童生徒が選ぶと同時に,自分たちで学校を創っていくこともできる学校であることがわかった。魅力的な公立学校だと直感し,CS を中心テーマとして修士論文を書き上げると同時に,広島大学とミネソタ大学との交換留学制度を利用し,博士課程進学後の1 年間はCS 発祥の地であるミネソタ州でCS 研究に取り組んだ。
1992 年に最初のCS が誕生して以降,アメリカにおいて現在ではおよそ6,500 校のCSにおいて250 万人の児童生徒が在籍している。
大学院生時代から20 年ほどの研究生活や,15 年間の大学における教育活動を振り返ってみると,“incidental” とも言える書物や人との出会いが,私の生きる道筋を創ってくれていることに気づかされる。
今年度の春・夏・冬・学外スクーリング等でも向上心あふれる多くの学生さんに出会うことができ,多くの刺激を受けた。これらも私にとってすべて“incidental” な出会いであり,学びであった。玉川大学通信教育部が,1 人でも多くの学生さんに“incidental” な学びを提供できていれば,幸いである。

(平成26年4月1日着任)

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 准教授
  • 広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。教育学修士。
  • 専門は、教育経営学・教育行政学・教育制度学
  • 趣味:野菜づくりと読書、そして我が子たちと遊ぶこと
  • 著書に『なぜからはじめる教育原理』(共著、建帛社、2015年)『新・教育制度論』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『教職概論』(共著、協同出版、2014年)、『新教職概論(改訂版)』(共著、学文社、2014年)、『教育制度と教育の経営(改訂版)』(共著、あいり出版、2014年)、『学校評価システムの展開に関する実証的研究』(共著、2013年、玉川大学出版部)、主要論文として『米国チャータースクールにおけるスポンサーによる学校評価に関する研究』(単著、日本教育経営学会論文誌(52))などがある。
  • 学会活動:日本教育経営学会(紀要編集委員)、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会 会員