震災時における保育園の新たな取り組みについて

2017.02.08
鈴木 牧夫

東日本大震災から5 年が経過して,津波被害地域への支援活動が一息ついたかな,と思っていたところで熊本地震が発生しました。2カ月が経過した6月中旬に,今後の支援活動を見通すために,保育施設の被害状況を調査しました。

建物の被害状況が深刻であった益城町,御船町の保育施設では,園舎の真ん中に亀裂が入って使用することができず,仮設保育所で保育を行うところも出てきました。私たちの研究会(保育問題研究会)が支援に入っている御船町立高木保育園は,園舎のコンクリートに亀裂が入り,駐車場が隆起していました(写真)。町ではこの園舎での保育を断念して,町役場の近くの旧恐竜博物館を仮設園舎にして保育を継続しています。園舎の広さは一定確保できているものの敷居のない空間を何とか区分して年齢別の保育を行っています。給食室,水道,トイレ等の水回りの確保に苦心していました。保育園は緊急時に必要な施設であるとしてすぐに仮設保育園を立ち上げた御船町こども未来課の対応に学ばされました。近隣の園の保育士さんたちがボランティアで入っていただけたことは大いに助かった,と園長先生は話していました。
「玉川通信」2016年2月号のエッセーで,阪神淡路大震災の教訓として保育園を避難所として活用するという提案が増田百代さんからなされていることを紹介しました。今回の熊本地震において,熊本市東区にある,やまなみこども園とさくらんぼ保育園では,広いホールを地域に開放して避難所的な活動を行いました。市全域では,頻繁に発生する余震の中で1週間の休園をしている中,両園は,宿泊所として利用してもらい,炊き出しをして暖かい食事をふるまったり,地域の人たちへ紙おむつや粉ミルク等の物資の提供をしました。
このような活動が可能になった背景には,日頃から保護者たち同士の繋がり,園と地域との繋がりがあって協力体制を作ることができたこと,両園とも全国的な研究会に参加しているために全国からの支援が得られたことがあります。私たちの研究会でも,前震の4月14日に電話で安否確認をしながら,被災地のニーズを把握して,17日には鹿児島から第1次の支援物資を届け,次いで天草からの支援も行いました。近隣の地域の研究会から,物資を調達して直接被災地の保育園へ届けることができました。このような初動的な段階における支援活動を行うことができたことは大きな成果と言えるでしょう。
東日本大震災から,私たちは,保護者や地域との繋がりの中で子どもの命を守り育てることが保育の基本であることを確認しました。保育施設が避難所的な役割をも求められていることを再確認した今,保育施設の更なる充実が求められているのです。

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 教授
  • 東北大学大学院教育学研究科博士課程修了
  • 専門は発達心理学 保育学 保育現場と結びついた発達研究を行っている
  • 全国保育問題研究協議会常任委員会代表
  • 東社協保育部会講師
  • 著書:「子どもの権利条約と保育」(単著)、「イメージの世界をつくる子どもたち」(共著)、「かかわりを育てる乳児保育」(共著)、「確かな感性と認識を育てる保育」(共著)等