異国における生活開始時のストレスケア

2018.10.01
原田 眞理


Stanford 大学のなかで一番大きい Green Library(上)と
Hover Tower(下)

MainQuad College Football の試合

昨年度,長期研修を認めていただいたために, 約10 カ月間アメリカのStanford UniversityでVisiting Professor として過ごしてきました。約15 年前に住んでいた場所のため,ある程度の土地勘はありましたが,シリコンヴァレーと言われる場所ゆえ,さまざまな変化がありました。Facebook,Amazon,Google などがあり,私が住んでいたStanfordのapartment があるLos Altos という場所のZIP code は94022 でしたが,家賃全米No.3でした。確かにアメリカの中では安全な地域ですが,物価は非常に高い場所です。
Invitation letter をもらってからの手続き(大学とのやりとり,大使館に行き査証取得など),そして住居を決め,車を購入するなどの生活のセットアップも大変でしたが,今回は大学生活開始時のことを書いてみます。
アメリカ到着日にオンラインで大学に到着を知らせます。すると査証の種類ごとに説明会が行われるという案内のメールがきます。指定された日時にその場所に行くのですが,キャンパスがおよそ1 万坪もあるので,場所を探すためにgoogle map などと格闘します。到着しても許可された駐車場がどれかを見極め,精神的に疲労しながら り着きました。説明会場には,私と同時期に世界各国から到着したStanford 関係者40 名くらいがおりました。皆,私と同様に迷ったことや疲れたことを口々に述べており,私も思わずその輪に入り話していました。会が始まると,大学の事務の方から注意事項を聞きます。その際に,マフィンとコーヒーが入り口に置かれていて,皆食べながら聞いたり質問したりします。Social security number の取得や運転免許の取得,学内のID やメールアドレスの取得など説明は多岐に亘りますが,一度に説明されます。部屋にはアメリカ生活に必要なSIM カードやFriday Coffee(新しいStanford関係者同士が知り合うために毎週金曜日開催されるお茶会)のお知らせ,英語を学びたい人のためのクラスの案内,各国料理のクラスの案内,周辺の情報などがたくさん置かれています。ほとんどが無料です。説明は一方的に型通りに行われますが,その後の質問などは非常にフランクで,親切に行われました。その場にいる人達は,専門は全く異なりますが,同時期に到着したということで,お互いに助け合い,情報交換等するうちに,研究でコラボしようか,という話に発展します。家族もこれらのプログラムを無料で使えるので,家族同士も知り合いを増やすことができます。このように,新しく来た人たちの精神的なケアが特別なことではなく,日常の中に組み込まれているのです。私はNationalCenter for PTSD で災害のメンタルヘルスを研究してきましたが,災害の多い日本においては,今後専門家だけがこころのケアに携わるのではなく,日常生活で信頼のおける人がこころのケアに携わることが大切だと考えています。知らない心理学者がこころの説明をすることも意味がありますが,日常生活の中では,例えば担任の先生が説明をしていく方が子どもたちは安心すると思います。先生のこころのケアも必要であることは言うまでもありません。帰国後は,Stanford で学んだことを,日本に還元していこうと思っています。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東京大学大学院医学系研究科(心身医学講座) 博士(保健学)
    日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士
    日本精神分析学会認定心理療法士
  • 専門は精神分析、臨床心理学、教育相談、医療心理学。災害関係のトラウマについて研究しているが、特に東日本大震災後の在京避難者支援を行っている。
  • 東京大学医学部付属病院分院心療内科、虎の門病院心理療法室、聖心女子大学学生相談室主任カウンセラーなどを経て現職。
  • 著書:『子どものこころ、大人のこころー先生や保護者が判断を誤らないための手引書』『子どものこころ―教室や子育てに役立つカウンセリングの考え方』『教育相談の理論と方法小学校編』『教育相談の理論と方法中学校・高校編』『女子大生がカウンセリングを求めるとき』『カウンセラーのためのガイダンス』など(含共著)
  • 学会活動:日本心身医学会、日本精神分析学会、日本心理臨床学会、日本教育心理学会 会員