筋道の通った文章

2019.04.26
教育学部 准教授  松山 巌

2022年度から適用される高校の新しい学習指導要領の国語科の科目構成について,日本文藝家協会が声明を出しました。原文を読むと,「単純な二項対立……ではなく」と釘を刺しているのですが,報道では「実学が重視され小説が軽視される……などの危惧」という部分が強調され,「高校国語から文学作品が消えて契約書の読み方を習うことになる」式の議論が目立ちました。
しかし,それ以前の問題として,文章そのもの(小説でも契約書でも何でも)を読み解く基本的な力はどうなのでしょうか。
丸谷才一氏は『文章読本』の第4章「達意といふこと」の中で,「島崎藤村の一文がもし『山の中はすべて木曾路である』であつたなら,論理が濁つて筋が通らなくなり,意味が伝はらないため,たちまち文章としての資格を失ふのである」と述べています。もちろん文芸的な文章の方が書き方の自由度は高いでしょうが,そうはいっても一定の筋道が通っていなければ,作者の思うところを読者に通じさせにくくなるのではないでしょうか。
SNSで日々繰り広げられているやりとりを読んでいると,どうみても元の文章をきちんと理解せずに反論していると思われる書き込みが目につきます。また,SNSよりはるかに時間をかけて練り上げているはずの大学生のレポートでも時折「山の中は全て木曾路である」式の書き方に出会います。
国立情報学研究所教授の新井紀子氏が全国2万5千人の中高生を対象に行った「基礎的読解力調査」で,かなりの割合の中高生が教科書や新聞記事の文章をきちんと理解できていないことが判明したそうです。例えば「Alexは男性にも女性にも使われる名前で,女性の名Alexandraの愛称であるが,男性の名Alexanderの愛称でもある」という文を読ませ,それを前提として「Alexandraの愛称は(  )である」の空欄に入る語を「①Alex ②Alexander ③男性 ④女性」から選ばせたところ,中1・中2では④が最も多かった(それぞれ49%, 37%)とのことです。
新井氏は,回答者が「愛称」という語を知らなかったのですっ飛ばして「Alexandraは(  )である」と読み,「女性」を入れたのではと推測しています。実際,SNSの書き込みでも,文脈を無視して,目に付いた単語だけをつまみ食い式に拾って勝手に理解(誤解)したと思われる例に出会います。
高校までの授業では,論説文自体は小学校の国語でも読みますが,実際に書かせるのは「感想文」「作文」中心で,筋道の通った文章の書き方を体系的に学ぶのは,まだ一部の先進的な学校・教師に限られ,多くの学生は大学に来て初めて,論理的に書くという難題に直面するのでしょう。
通信の皆さんは,テキスト中の分からない単語も飛ばさず(必要ならば調べ),文章の論理展開をしっかり把握しながら読み,そして筋道が通ったレポートを書くように努めてください。また,論理的な文章の書き方を学ぶ本もたくさん出ています。探してみてください。

  • 2019年1月24日付け。
  • 『夜明け前』の冒頭「,木曾路はすべて山の中である」という一文。
  • 新井紀子著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社,2018年。
  • 英語の教科書のAlexという人名につけられた脚注。