特別支援教育「学びのすすめ」

2020.01.21
新谷 喜之

一昨年の3月まで、地方の教育委員会で教育長として勤務していました。自治体における義務教育の責任者として、現場主義、3年間で延べ150回ほど、小・中学校の学校訪問を行いました。週に一度はどこかの学校を訪問していた計算になります。長く国と地方の教育行政の仕事をしてきた私にとって、校長先生と学校経営について話し合ったり、授業の様子を拝見したりするのがとても楽しみでした。元気な子どもたちの声が、今でも耳に響いています。グループ別学習など多くの子どもたちが生き生きと活動している中で、明らかに授業についていくことに困難があると思われる子どもの存在が気になりました。

2012(平成24)年の文部科学省の調査によると、発達障害等により支援が必要な児童生徒が、小・中学校の通常の学級に6.5%の割合で在籍しているといわれています。

日本の特殊教育は明治以来、先人たちが障害のある子どものために様々な努力を重ね、1979(昭和54)年の養護学校教育の義務制実施に際し、「どんなに障害が重くても教育の対象にする」と、重度・重複障害教育の充実にも力を入れてきました。一方、発達障害については、1992(平成4)年からLDに関する研究に取り組み、ようやく1999(平成11)年にLDの定義や教育的対応の報告がまとまりました。以来、発達障害への対応が強く求められるなか、2007(平成19)年に特別支援教育として「一人一人の教育的ニーズ」への対応が進められています。さらに、2014(平成26)年の「障害者の権利に関する条約」の批准に伴い、インクルーシブ教育システムの構築、教育における合理的配慮の推進が求められています。これらの新たな課題に対応するためには、幼稚園、小学校、中学校、高等学校においても特別支援教育の体制整備が必要です。

2016(平成28)年3月に告示された小学校の学習指導要領総則においては、「児童が、基礎的・基本的な知識及び技能の習得も含め、学習内容を確実に身に付けることができるよう、……指導方法や指導体制の工夫改善により、個に応じた指導の充実を図ること」とされています。小学校に在籍するすべての子どもについて、障害のあるなしに関わらず、「個に応じた指導」のための様々な取り組みが求められています。以前から特別支援学校の教育は「個に応じた指導の老舗」と言われてきました。今こそ、特別支援学校の教育と小・中学校等の教育がより近づき、連続性をもち、すべての子ども達の「一人一人の教育的ニーズ」に対応した教育を提供できるよう、学校教育を変えていく必要があります。

教育職員免許法の改正により、2019(平成31)年4月に入学した大学生から、教員養成課程において、特別支援教育に関する科目の単位取得が必修化されました。特別支援学校の教員を目指す人はもちろん、幼稚園、小学校、中学校、高等学校すべての教員を目指す方々が、特別支援教育について大いに学ぶことを期待します。