授業でのICT活用に向けて

2020.06.01
田畑 忍

文部科学省「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」
(2018年)より

内閣府は「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(2019年)において,「特別な支援を必要とするなどの多様な子供たちを誰一人取り残すことのない一人一人に応じた個別最適化学習にふさわしい環境を速やかに整備する」などとし,初等中等教育においては「学校における高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進する」ことや「令和5年度までに,全学年の児童生徒一人一人がそれぞれ端末を持ち,十分に活用できる環境の実現を目指す」ことを示しました。このような学習環境が実現できれば,例えば児童生徒が知識獲得のためにシステムから個別に与えられる問題を解いたり,児童生徒が自身の興味関心に応じて個別に課題を設定して探求したりする学習が,特別なものではなくなる可能性があります。
(「玉川通信」2019年6月号の「研究室だより」でも触れましたが)文部科学省は「ICTを効果的に授業で活用することによる『わかる授業』の実現のためには,ICT 環境の整備はもとより,その環境を活用する教員のICT活用指導力の向上が必要不可欠」であるとし,公立学校で授業を担当する全教員を対象に,毎年,ICT活用指導力を調査しています。チェックリストは「A:教材研究・指導の準備・評価・校務などに ICTを活用する能力」「B:授業にICTを活用して指導する能力」「C:児童生徒のICT活用を指導する能力」「D:情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力」にわかれていますが,これらの項目は2018年に改訂され,協働学習の要素を反映したものが追加されました。これは,児童生徒がそれぞれの端末で個別に学習を進めるための指導だけではなく,「子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び」(文部科学省「学びのイノベーション事業」)を促す指導を,教員がICTを活用して実施できているのかを確認しようとするものです。
授業でのICT活用と聞くと,ICTの活用場面や活用方法に目が向いてしまいます。また,ICTに不慣れな人は不安を感じるかもしれません。しかし大切なのは,「ICTは道具である」という基本です。アクティブ・ラーニングでも言われていますが,ICT活用も「手段であり目的ではない」のです。協働的な学びを促す指導についてはこれまでも(ICTを活用せずに)行われてきました。ですので,まずはICTを活用せずに協働的な学びを促すことのできる力量を身に付けることです。その次の段階として(協働的な学びをより円滑に行わせようとした時に),例えば,資料の収集やグループでの発表資料の作成,発表などでICT活用を検討すれば良いと思います。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 准教授
  • 三重大学大学院 教育学研究科学校教育専攻 修士課程修了。教育学修士。
  • 三重大学大学院 工学研究科システム工学専攻 博士後期課程修了。工学博士。
  • 専門は、教育工学、教育方法学。
  • 皇學館大学・名古屋女子大学非常勤講師などを経て現職。
  • 論文に『ステップごとの解説の作成と相互評価をとり入れた問題づくり授業』『ワークブックを用いた演習を支援するシステム-教師による直接指導と同等の支援を目的とした演習支援システム-』などがある。
  • 学会活動:日本教育工学会、コンピュータ利用教育学会 会員