「枠組み崩し」と「捉え直し」

2020.12.01
宮﨑 豊

私の研究フィールドは、就学前の教育・保育の場にあります。その中でも、一人ひとりの生活のあり方、学び方、その多様性を大切にするということを、実践の場で、子どもと、保育者と、そして保護者ともに考えています。

昨今、「インクルーシブな教育(保育)」という言葉が聞かれることが多くなりました。このことはとても喜ばしいのですが、実践の場でその意味を語り合ってみると、少し驚くことがあります。この言葉は、「包括」という日本語で訳され、さまざまな子どもが共に「居ること」「在ること」が大切であると訴えられ、説明されています。これまで使っていた「統合(integration)」という言葉、表現と対比させて、「定型な発達をする子ども(これまで『健常児』といわれてきた子ども)」の中に、「障がいがある子ども」を位置づけるということではないという理解が深められ、その点で安心が得られます。また、「定型な発達をする子ども」の育ちや学び方にできるだけ近づけるという教育・保育のあり方を求めるのではないということも浸透されてきました。しかし、もう一つ、大切に確認をしなくてはならないとこが抜け落ちていることが多いように思うのです。それは、「インクルーシブ(Inclusive)」の対語となる「エクスクルーシブ(exclusive)」という言葉と概念、日本語にしたときの意味と、そこから模索される教育・保育のあり方が問われていないのではと考えるからです。この「エクスクルーシブ(exclusive)」の意味は、「排他する。仲間はずれにする。」ということになります。そして、そこから「インクルーシブ(Inclusive)」な教育・保育の意味を考えるとするならば、誰一人として排除されることがない、邪魔にされない教育・保育の探求という意味につながるのだと考えます。ややもすると、「一緒」「同じ」というだけで満足されがちになりますが、今、ここにこそ、ダウトをかけなくてはならないのです。つまり、まさに、個人の生活やコミュニケーションのとり方、学び方などが排除されない教育・保育のあり方を探求するということに大切になるのだと考えています。

また、同時に、公には聞くことが少なくなりましたが「問題行動」「気になる行動」という言葉や表現も考えたいものになっています。子どもの行為には意味があるのですが、その行為を「問題」「気になる」としてよいのだろうかと。このことは、大人の側の問題であることに立ち戻る必要があると考えます。そうでないと、本当の行為の意味が見えなくなってしまうからです。では、どのような言葉に置き換えるか。子どもの今、そこに在ることに意味を大切にするならば、「子どもと意味をすり合わせたい行為」ということになるのでしょうか。いまだ、よりよい表現は見つかりません。しかし、このように、言葉を含め、子ども理解にしても、子どもへの援助のあり方についても、枠組みを一つずつ崩し、新しいものを模索することがこれからは求められると考えつつ、研究を進めています。

プロフィール
  • 教育学部 乳幼児発達学科 教授
  • 経歴:玉川大学 文学部 教育学科卒業
    東京学芸大学 大学院 教育学研究科 障害児教育専攻 障害児臨床講座 修士課程 修了
    東京学芸大学附属特殊教育研究施設 、東京都中野区立療育センターアポロ園  学校法人初音丘学園 初音丘幼稚園・スカイハイツ幼稚園、國學院大學幼児教育専門学校 専任講師、千葉明徳短期大学 保育創造学科 助教授・教授、十文字学園女子大学 人間学部 幼児教育学科 准教授 を経て、玉川大学 教育学部 乳幼児発達学科  准教授・教授、 現職に至る
  • 著書:『最新 保育原理』(教育情報出版社 2020年 共著)、『保育内容総論(保育・幼児教育シリーズ)』(玉川大学出版 2018年 共著)、『健康の指導法 (保育・幼児教育シリーズ) 改訂第2版』(玉川大学出版 2018年 編著)、『子どもの育ち合いを支えるインクルーシブ保育』(大学図書出版 2017年 共著)、『医療保育セミナー』(建帛社 2016年 共著)『必携 病児保育マニュアル vol.2』(全国病児保育協議会 2014年 共著)、『障がい児保育の基礎』(わかば社 2014年 共著)、『幼稚園実習 保育所・施設実習 [第2版]』(ミネルヴァ書房 2014年 共著)
  • 所属学会:日本保育学会、日本保育者養成教育学会、全国病児保育協議会 など