ある図画工作科の授業から見る道徳教育

2021.06.01
高橋 妃彩子

 小学校の校長を停年退職して8年目になる。その間に、都内の多くの小学校に校内研究の講師として出向いた。私の専門は道徳教育なので、もちろん道徳科授業の指導助言や講演が多い。校内研究で道徳教育を行っている学校の中には、道徳科の授業だけでなく、全教育活動における道徳教育を取り上げて熱心に研究を深めている学校も少なくない。言うまでもなく、学校で行う道徳教育は、すべての教育活動が対象であり、朝の会や休み時間、給食時間等や各教科等の特質に応じて計画的に行われている。その中で、今回紹介するのは、第5学年の図画工作科の授業である。図画工作科における道徳教育の授業実践を指導助言する機会を得、私自身、大いに学び、そして、子供たちと一緒に感動することができたと思っている。

 学習指導要領高学年の図画工作科の目標(2)に「造形的なよさや美しさ、表したいこと、表し方などについて考え、創造的に発想や構想をしたり、親しみのある作品などから自分の見方や感じ方を深めたりすることができるようにする。」とある。本時は、B鑑賞「見て、聴いて、感じて~風神雷神図屏風を読む~」が題材であり、本時の目標は、風神雷神図屏風の鑑賞を通して、描かれているものや表し方の特徴などを捉えるとともに、よさや美しさなどを感じ取り、造形的なものの見方を広げ、感じ方や考え方を深めることである。ほぼ原寸大の「風神雷神図屏風」(俵屋宗達作)を用意し、一人で鑑賞する→学級全体で交流する→グループで鑑賞し交流する→鑑賞したことを学級全体で共有する→鑑賞したことをまとめるという授業の流れであった。一人でじっくり味わったり、友達の見方に感動したり、新しい発見をしたりしながら豊かな感性を培うようにしていった。そのためには、指導する教師の教材提示や学習指導過程を工夫したり、鑑賞の視点を明確化させたりするなどの周到な計画と準備が大切である。そのことをこの授業から改めて確認した。子供たちの様子は、作品のすごさに感動しながら、思い思いの考えを表現することができていた。特に、授業後半の図工室を暗くし屏風に下から照明を当てた鑑賞は、当時(17世紀前半)の趣を味わうことができていたようである。

 道徳教育との関連については、本題材は、鑑賞対象の作品が、日本の伝統的な屏風絵という絵画形式であること、国宝として未来に引き継ぐ文化財であることなどから、道徳科の内容項目「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」との関連はもちろんであるが、描かれているもの、形や色、イメージなどを互いに伝え合う鑑賞活動を通して、自分と違う感じ方や考え方のよさを感じ取り、尊重しようとする態度が養われる「相互理解、寛容」との関連も考えられ、十分にそれらを意識した授業であったと言える。講師としての私は、学習指導案の内容を基にどのように指導助言していくかを研究するとともに、屏風や掛け軸、扇、根付などの日本の古くから生活を楽しむために工夫されてきた美術品について、意欲的に学びを深めることができ、ぜひ、本物に出合いたいという私自身の興味関心を高めることができた。

プロフィール

  • 所属:教師教育リサーチセンター 教職サポートルーム
  • 役職:客員教授
  • 最終学歴:北海道教育大学教育学部卒業 教育学士
  • 専門: 小学校教育、道徳教育
  • 職歴:
    • 東京都公立小学校 教諭、教頭、校長 (S52年度~H25年度)
    • 東京都教職員研修センター 東京教師養成塾 教授(H26年度~H27年度)
    • 敬愛大学非常勤講師(H26年度~H28年度)
    • 国立大学法人 東京学芸大学非常勤講師(H30年度~R1年度)
    • 玉川大学 教師教育リサーチセンター 客員教授(H28年度~)
  • 著書:
    • 分担執筆:「道徳教育推進教師の役割と実際」一心を育てる学校教育の活性化のために一(教育出版)
    • 分担執筆:「これからの道徳教育と「道徳科」の展望」(東洋館出版)
    • 分担執筆:月刊誌「道徳と特別活動」11月号(2020)(文溪堂)
  • 学会活動:
    • 日本道徳科教育学会 理事 副会長
    • 全国小学校道徳教育研究会 顧問