振り返るといつも
2021.07.01
田畑 忍
小学校で必修となったプログラミング教育ですが、「プログラミング教育」でインターネット検索をすると、さまざまな情報(資料など)を見ることができます。
<例1>文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」
<例2>「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」
- https://miraino-manabi.jp/(参照日:2021.6.14)
また、「プログラミング教育 実践例」「プログラミング教育 教科」などで検索をすれば、より詳しい情報(得たい情報)を見つけることができます。将来の学習指導に向け、プログラミング教育が気になっている方も多いのではないでしょうか。
私はスクーリングで「教育の方法と技術」や「コンピュータと学習支援」などを担当しています。それらの授業でも、多くはありませんがプログラミング教育について触れています。「プログラミング的思考とは?」「プログラミング教育が求められる背景について」「Scratchの使い方」などです。それらの説明については省略しますが、プログラミング教育の説明や実践例などを見てゆくと「試行錯誤」という言葉がよく出てきます。上記の例においても
<例1:P11>「児童がプログラミングを『体験』し、自らが意図する動きを実現するために試行錯誤することが極めて重要となります。」(下線筆者)
<例2:実施事例A:私たちの生活を豊かにする未来の宅配便>「住民によろこばれる宅配を模擬体験できるように、仮想の町を作り、宅配車(mBot)を走らせる。その際に、試行錯誤しながら児童が考える動作に近付くことができるように、プログラムの内容や方法を支援できる教師が指導に当たるようにする。」(下線筆者)
などの記述が見られます。
話は飛びますが、私の大学院の指導教官であった下村勉先生は「統合評価法」を提案しました。とてもシンプルなもので、問題に回答した直後、その解答に対する自信の有無を子どもたちに「○」か「×」で各解答欄の横に記入させます。すると、従来は「正答」か「誤答」の2値だったものが、右図のように①~⑤の5つに分類できるようになります。①だった場合、子どもたちは学習内容の理解に自信を持ちます。②だった場合、「自信があったのにもかかわらず誤答」だと指摘されたので(心理学で言う)認知的不協和という状態になります。その結果、不快感を解消するために、誤答であった問題の見直しを自主的に行う可能性が高くなります。ここで問題になるのは④です。「解答に自信がなくて(やっぱり)誤答」だった場合です。この場合、適切なフォローがなければやる気をなくしてしまう恐れがあります。
これからの教育を考える時、「試行錯誤」が許される場面を提供することはとても大切です。また、プログラミング教育において、ゲーム的な要素が含まれるものや実際に動かすことができるロボットなど、楽しそうな教材で子どもたちの興味関心は高まると考えられます。
しかし、「失敗してもいいんだよ」「思った通りにまずはやってみよう」という場面であっても、うまくできないことや失敗などを繰り返してしまうと、(当然ながら)楽しそうなものも楽しくなくなってしまう恐れがあります。特に、理解が不十分なままで(≒自信がなくて)課題に取り組まなければならず、うまくできなかった場合は猶更です。
プログラミング教育において、子どもたちが④の状態にならないために(または④の状態になった時に)何が必要なのか?子どもたちが自信を持って取り組むことができるようにするにはどうすれば良いのか?
プログラミング教育についてインターネット検索をする時はぜひ、そのような視点からも情報(資料など)を見てほしいと思います。
タイトルについて
今回の「通信からの風」では、プログラミング教育における「試行錯誤」について書こうと思っていましたので、タイトルについても「試行錯誤を大切にするために」「プログラミング教育で大切にしてほしい視点」などにしようと思っていました。しかし、最終的には「振り返るといつも」にしました。
理由は、私の教育に対する考え方や研究の中には(割合の大小はありますが)いつも、私が大学院で学んだ「統合評価法」の視点があると再確認したからです。
「①や②の状態になってもらう(自信をもって解答してもらう)にはどうすれば良いのか?」
「④の状態にさせないためには何が必要か?」
そんな思いから、このタイトルにしてみました。
私にとっての「統合評価法」のようなものが、みなさんの玉川大学通信教育課程での学びの中にもあったでしょうか。そのような出会いがあったのであれば、とても幸せなことだと思います。それを自分の教育や研究の中に取り込み、発展させてください。
もしもまだそのような出会いがないのであれば、興味を持って学び続けて欲しいと思います。そうすればきっと、「振り返るといつも」何かを思い出させてくれるものが手に入るのではないかと思うからです。
プロフィール
- 教育学部教育学科 通信教育課程 准教授
- 三重大学大学院 教育学研究科学校教育専攻 修士課程修了。教育学修士。
- 三重大学大学院 工学研究科システム工学専攻 博士後期課程修了。工学博士。
- 専門は、教育工学、教育方法学。
- 皇學館大学・名古屋女子大学非常勤講師などを経て現職。
- 論文に『ステップごとの解説の作成と相互評価をとり入れた問題づくり授業』『ワークブックを用いた演習を支援するシステム-教師による直接指導と同等の支援を目的とした演習支援システム-』などがある。
- 学会活動:日本教育工学会、コンピュータ利用教育学会、日本協同教育学会、大学教育学会 会員