学芸員資格取得を目指す方々へ

2021.08.01
柿﨑 博孝

今の博物館は、資料の収集・保管、保存、調査・研究、展示、教育活動といった本質的な機能に加え、社会教育機関としての生涯学習や地域づくりの拠点としての役割が期待されています。また、博物館の活動を通して、文化財の保護や学術の進展に貢献するとともに、文化、教育、観光などの産業との結びつきにおいて、経済的効果にも寄与する部分も多くあります。そのような「博物館のもつ力」を推進し、高める役目が専門職としての学芸員です。玉川大学の通信教育課程に学芸員コースが開設されたのは1990年ですから、今年度で31年になります。その間多くの有資格者を輩出し、学芸員として活躍されている方、博物館に関わる業務につかれている方のほか、博物館学での学びをもとにボランティア活動を行っている方など、資格をいかした仕事や活動を行っている方がたくさんいます。
学芸員資格取得を目指すには、カリキュラムにしたがって「博物館学」の諸科目を履修しますが、これは学芸員としての活動だけでなく、博物館を考える上で大事な役割を果たします。博物館を取り巻く社会情勢は大きく変化し、過去の時代にはなかったさまざまな新しい技術や情報のもとで博物館は進み続けています。その状況の中で、博物館のもつ文化資源や情報資源をどのように活用していくか、教育機関としての博物館を人々にとって利用しやすい存在とするには、社会とどのような関係を構築すればよいか、というようなことは、いつの時代でも常に考えていかねばならない課題です。それには、博物館学が考え方の基盤や枠組みとなり、実践のためのツールとなります。学芸員資格取得の目的は人によって異なりますが、資格をいかす場は社会の中にたくさん存在するので、博物館学での学びはさまざまな場面で役立つと思います。
一方、博物館学を学修し、理解を深めるには、理論的な内容ととともに、技術的・実践的な内容も必要になります。学芸員として人類にとってかけがえのない資料や遺産を護り、文化の創造と発展に役立てるためには、博物館学における理論と同時に技術的な側面の理解と習得も必須の条件になります。それらを学修するのが、博物館実習になります。博物館実習は、資料の収集・保管、保存、調査・研究、展示、教育活動などの専門的、実践的な実習および講義を通して、博物館に対する理解を深め、学芸員に必要な資質を具体的・体験的に養うことを目的としています。通信教育課程では個別学修が中心になりますが、博物館実習の受講では担当教員や他の受講生と交流を深め、学びの情報を共有するとともに、互いに協力しながら実習プログラムに積極的に参加することで、教員や仲間との間で双方向的な学びが可能になります。
そして、皆さんに推奨するのは、博物館見学です。博物館学のテキスト学修では、どうしても一般理論、抽象的理論にならざるを得ない部分があります。それを補う部分としては、実際に博物館を訪れ、活動や運営の実態をつぶさに観察することが重要になります。展示であれば、資料のみを見るのではなく、展示がどのようにつくられているのか、どのようなもので構成されているのか、解説計画、視線計画、動線計画、ゾーニング、デザインなど、あらゆる角度から展示を観察し、分析してほしいと思います。もちろん、中には優れた展示とはいえないものもあるかもしれませんが、改善すべき点の多い展示も実際に見て、評価することにより、展示のあり方に対する理解が深まるはずです。これは、展示論だけではなく、博物館学全般にもいえることです。博物館学の学びの充実と深化につなげるために、実際にさまざまな種類の博物館をできるだけ多く訪れ、機会があればバックヤードツアー、展示室のガイドツアー、ギャラリートーク、ワークショップ、体験学習、見学会などの教育プログラムに参加することをお勧めします。

プロフィール

  • 氏名:柿﨑博孝
  • 所属:教育博物館
  • 役職:客員教授
  • 最終学歴:玉川大学芸術専攻科修了
  • 専門:博物館学
  • 著書:『博物館資料論』(樹村房 共著)
    『日本の産業遺産(Ⅱ)―産業考古学研究』(玉川大学出版部 共著)
    『博物館教育論』(玉川大学出版部 共著)
    『明治前期教育用絵図展』(玉川大学教育博物館 編著)
    『掛図に見る教育の歴史』(玉川大学教育博物館 編著)
    『学びの風景―明治のおもちゃ絵・絵双六に描かれた教育』(玉川大学教育博物館 編著)
    『ジョン・グールドの鳥類図譜―19世紀 描かれた世界の鳥とその時代』(玉川大学教育博物館 編著)
  • 学会活動:ミュージアム・マネージメント学会 アジア鋳造技術史学会