災害に備える

2021.11.01
原田 眞理

 東日本大震災から10年、そしてコロナ禍になり1年半以上が経過しました。災害は予想もしないところでやってきて、大きな影響を残します。また、気候変動の影響もあり、世界中で台風やハリケーン、山火事などが多発しています。私たちも自然災害はじめ、災害への準備が常に必要だと思います。まして、教員になろうと勉強をされている学生の皆様は、現場に入ると、子どもたちの命を預かり、また地域の方々の避難先となる学校に勤務することになります。日頃からの防災への意識を高めておく必要があると思います。そのためには、災害や地域への知識が必要となります。

 東日本大震災も原発被害との複合災害でしたが、現在はコロナ禍でもあり、何かが起きると、常に複合災害になります。人は、一つのことに夢中になると、もう一つを忘れがちなので、さらなる準備が必要です。

 防災は日常生活の中にあることが大切なポイントとなります。すなわち当事者意識を持つことです。学校でも避難訓練などを行いますが、子どもたちがやらされ感満載で避難訓練をしても無駄です。ではどのようにすると、子どもたちは当事者意識を持つようになるのでしょう?または自分ごととして考えるようになるのでしょう?ここをどのように教育の中に取り入れていくかということが、教員として工夫し考えるべき部分になります。

 戦争体験や原爆体験の語り部があります。これらは時代を越え、その体験を語り継いでいます。これらの活動が後世の人が当事者意識を持つことに有用だという研究もされています。このような中で、私は通学のゼミ生たちと、福島県双葉郡川内村の食材を使った学食コラボを行い、村長始め村の方々のお話を聞かせていただく活動をしています。

 川内村は東日本大震災と原発事故の双方の被害を受けた地域です。10年が経過し、住民は8割が帰還しています。川内村は2012年に「戻りたい⼈から戻ろう、⼼配な⼈は様⼦を⾒てから戻ろう」という、時間で⼈⽣を区切らない帰村宣⾔をしました。ライフサイクルにより⼀⼈⼀⼈状況が違う、そしてどこにいても故郷はいつまでも故郷であることを保証した素晴らしい宣⾔です。 遠藤村長は「復興は、生きがいや尊厳、誇りを取り戻すことである」と語っておられました。避難しか選べない状況では、自分の家、住む環境、場所、そこで行っていた仕事も農作業、お祭りや伝統芸能も失ったのです。

 このような被災と復興を体験した方々のお話に耳を傾け、自分に何ができるのかを自分に問いかけることは、当事者意識を持つ上でとても大切な体験になると思います。そして、皆さん自身が、自分の住んでいる地域について知り、どのような災害が起きるかを予測し、備えをしてください。皆さんが、震災についてよく知って、防災ができることは、授業の中で子どもたちに当事者意識の伴う防災教育ができることにつながります。ひいては社会を守ることにつながると思います。そして備えるためには、知識がないとならないのです。

福島県産食品についての東京都民の意識
三菱総合研究所第3回意識調査詳細レポートより

 また一方、東京の大学生は残念ながら震災は遠いこととなり、あまり考える機会がないようです。福島の食材を避けて買い物をする人は少なくなっていますが、それでも三菱総研の調査では東京の人のうち、24%が家族や子どもに食べさせる時に放射線を気にすると答えています。福島の食材は震災以来ずっと線量検査も行い、安全性が数値として示されているにもかかわらずです。福島以外の食材に、線量はじめ、詳細な情報を確認して購入されているでしょうか?これが風評被害の恐ろしさです。現代はスマホでたくさんの情報を手に入れることができます。皆さんは、情報に惑わされず、自分で有用な情報を選び取り、自身で判断してほしいと思います。

 福島にはたくさんの美味しいものがあります。果物、おこめ、野菜、日本酒、川俣のしゃも、新鮮なお魚。これを食べないなんて損です。また福島は山と海があり、美しい風景、温泉など一度行くと、もう一度いきたいと思う場所です。なかでも川内村は高地にあり、高原気候のうえに、村の方々は東京の私たちをとても温かく迎えてくださり、また来たい、また来ようという気持ちになります。私の中で大好きな場所の1つです。

初期のこころのケアについて 原田ゼミ作成

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東京大学大学院医学系研究科(心身医学講座) 博士(保健学)
    日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士
    公認心理師
    日本精神分析学会認定心理療法士
  • 専門は精神分析、臨床心理学、教育相談、医療心理学。災害関係のトラウマについて研究しているが、特に東日本大震災後の在京避難者支援を行っている。
  • 東京大学医学部付属病院分院心療内科、虎の門病院心理療法室、聖心女子大学学生相談室主任カウンセラーなどを経て現職。
  • 著書:『子どものこころ、大人のこころー先生や保護者が判断を誤らないための手引書』『子どものこころ―教室や子育てに役立つカウンセリングの考え方』『教育相談の理論と方法小学校編』『教育相談の理論と方法中学校・高校編』『女子大生がカウンセリングを求めるとき』『カウンセラーのためのガイダンス』など(含共著)
  • 学会活動:日本心身医学会 代議員、日本精神分析学会、日本心理臨床学会、日本教育心理学会 会員