キジュンは「規準」OR「基準」

2021.12.01
上野 和彦

 学習指導案やレポートを見ていると、「規準」と表現している場合と「基準」と表現している場合があります。単なる変換ミスなのか、何か意味があって使い分けているのか、容易に判断できないときがあります。「単元の評価規準」のときは「規準」、「単元の指導計画・評価計画」のときは「規準」の場合もありますし、「評価」という場合もあります。「本時の展開」では、「評価」としている場合が多いようです。そこで、改めて「規準」と「基準」の意味について考えてみることにします。
 橋本重治氏による「規準」と「基準」の使い分けによると、「規準」は目標や行動に対しての質的キジュンを意味し、英語でのクライテリオン(criterion)を指します。それに対して、「基準」はどの程度達成あるいは発達しているかという量的キジュンを意味し、英語でのスタンダード(standard)を指します。また、金井達蔵氏は、クライテリオン(規準)の語が質的な比較の場合に用いられるのに対して、スタンダード(基準)は量的比較の場合に用いられると述べています。そして、「規準」の「規」は規範、規矩(きく)のように守るべき「のり」の意味が含まれているので、「ノリジュン」ともいわれています。それに対して、「基準」は「モトジュン」といわれています。すなわち、「規準」は目標に対するよりどころであり、「基準」は判定のためのよりどころということになります。
 そのように考えると、単元の目標(ねらい)に対するよりどころとして「単元の評価規準」、一時間一時間の指導の目標(ねらい)のよりどころとして「評価規準」ということになります。「評価規準」の用語が注目されたのは、平成14年2月28日の国立教育政策研究所「評価規準の作成、評価方法の工夫改善のための参考資料-評価規準、評価方法等の研究開発(報告)-」が発表されたときです。そのときに今日と同じように、「内容のまとまりごとの評価規準及びその具体例」「単元の評価に関する事例」などが示されました。現在と異なるのは、評価の観点が4観点(算数科の場合)であったことです(関心・意欲・態度、数学的な考え方、表現・処理。知識・理解)。
 それでは、「評価基準」は必要ではないのでしょうか。今日、「個別最適な学び」がキーワードとして注目されています。過去においても「個に応じた指導」「一人一人の子供の個性やよさに応じた指導」「確かな学力の育成」ということが叫ばれました。「個別最適な学び」を実現していくためには、「評価基準」が重要になってくると思います。最近の情報として、『新しい算数研究 2021 №606 9月号』(新算数教育研究会編集 東洋館出版社)で大阪市立橘小学校長 川西邦彦氏が3年除法の学習評価を例に、第1時の評価として、「評価規準:除法が用いられている場面の数量の関係を、具体物や図などを用いて考えている。」「評価基準A:ブロックの操作や〇の図とかけ算の式を関連付けてノートにかいたり説明したりしている。」「評価基準B:ブロックを操作したり、〇の図をかいたりかけ算で考えたりして答えの見付け方を説明している。」『評価基準C:ブロックを操作して答えを見付けている。』を設定されています。今後、目指すべき学習指導と学習評価を考えると、一時間ごとの「評価基準」も設定しておく必要があるのではないでしょうか。

プロフィール

  • 教師教育リサーチセンター 教職サポートルーム 客員教授
  • 横浜国立大学教育学部数学科卒業
  • 専門は算数・数学教育
  • 職歴:
    ・昭和54年度 東京都公立小学校教員になる
    ・平成17~18年度 東京都新宿区立四谷第四小学校長
    ・平成19~23年度 東京都新宿区立花園小学校長
    ・平成24~27年度 東京都練馬区立南が丘小学校長
    ・平成28年度~ 現在に至る
  • 著書(執筆者):『改訂新版 講座 算数授業の新展開 第4学年』(新算数教育研究会編著 東洋館出版社)pp.180-189 『算数と数学の一貫した指導が学力を向上させる』(片桐重男編著 学事出版)pp.27-29,90-92『算数教育学概論 指導法・評価・事例編』(片桐重男著 東洋館出版社)pp.186-189,p.217,p.225
  • 学会活動:日本数学教育学会、新算数教育研究会、算数数学教育合同研究会