「教育」と「テクノロジー」の間より:Hallow_New_Generation

2022.02.01
山田 徹志

【はじめまして】

2021年4月より教育学部教育学科の所属となりました。山田徹志です。
本学の卒業生である私は、約15年ぶりに学び舎へ教員という立場で戻ってきました。このような日が来るとは信じられず、大変、感慨深く感じます。
本学から幼稚園教諭として巣立ち、その後、研究所や企業を渡り歩く中で気が付くと教育工学の道を歩んでいました。その過程は様々な人々に支えられながら、今までにない多くの発見と学びに満ち溢れていました。少し稀有な歩みの中で得た経験・知見が本学の発展に繋がれば嬉しい限りです。宜しくお願い致します。

1:教育の「道具」としてのICT


今、私たちはコロナ禍の最中にあります。この世界的インシデントは、人々の生活を翻弄し続けています。事態の本当の意味での収束にはまだ時間がかかることも予想されます。

一方で、社会全体の基盤システムを止める訳にはいきません。これは教育機能の維持も例外ではありません。このような、状況下において、オンライン授業という形で教育実践へ一役買ったのが「双方向コミュコニケ―ションツール」と言えるでしょう。広く周知されるものでは、Teams、Zoom、Meetなどがあります。これらのICT(Information and Communication Technology)は、コロナ禍以前よりビジネス界では当然に使用され、本学でも既に配備されていました。つまり、使わざるをえない状況になった時、既存ICTはコロナ禍へ立ち向かうための教育の「道具」として広く認知されました。

2:対面授業・オンライン授業で共通する“ふるまい”の変化

コロナ禍での急速なオンライン授業の拡大は、その利便性以上に新たな教育への問いを私たちに投げかけているように思います。それは、「どこでもドア」のように時空間を超え教育の場が形成されること、このことが学ぶ側、教える側双方に対して授業そのものの意味合いを考え直す契機を与えたためです。対面でなければならない。否、オンラインで十分である。という議論をおこなう場面に直面することがあるようにです。

一方で、どちらの授業形態でも人同士のコミュニケーションを通して、その時間がリアルタイムでデザインされるという部分では共通しています。

例えば、教える側は、学ぶ側の「疲れ」や「集中」の度合いを加味し、ワークを実施したりフランクなトピックを織り込んだりします。そして、この時、学ぶ側も教える側の状況に応じた授業内容に意識を向けようとします。つまり、刻々と状況が変化する授業の中で、互いが相手の状態を認識し合うことで授業はデザインされていると考えられます。

では、この時、互いの何を認識しコミュニケーションをしているのでしょうか。コミュニケーションには多様な認識対象や個人特性が存在することは当然ですが、相手の「ふるまい」(動作)を手立てにしていることが少なくありません。眠気を「重そうな瞼」や「急にカクカクする首」などの動作から推測するといったようにです。そこで、私たちの研究グループでは、授業中の学ぶ側、教える側のある「ふるまい」に注目し、授業中のコミュニケーション状態の「見える化」に挑戦しています。その一例を少し紹介します。

3:「目と目で通じ合う」の「見える化」

授業がデザインされていく過程において、教える側・学ぶ側が互いに読み取り合う相手の「ふるまい」は多様です。その中でも、私たちが、日ごろ無意識的に捉えている相手の「ふるまい」の中に「視線」があります。ここでは、視線研究の詳細には触れませんが、授業の場がデザインされる過程で、「熱いまなざし」、「熱心な姿勢」を「視線」から感じとる。というような場面は以前より教育現場の実践的事実として語られています。まさに、「目と目で通じ合う」の世界です。

だとすれば、教える側・学ぶ側の視線情報から、授業がデザインされる過程にあるコミュニケーションの構造を「見える化」できるのではと考えました。そこで、実際にあるオンライン講義中の講師と生徒の視線情報をAI技術より取り出してみました(図1)。

図1 オンライン講義中の講師と生徒の視線
  • 図1はオンライン講義中に投影されている画面(資料共有時)の講師、生徒それぞれの視線(画面上の黒線)とそれを重ね合わせたもの(図の上部)。

この時、共有している講義資料に向ける双方の視線の軌跡は少しズレながら同調(視線同調)している様子が観測されました。これは、講義資料に沿った授業内容を伝えようとする講師の視線に対して、生徒側の視線も追従していることを表していると考えられます。

つまり、講師の「伝えたい」情報に伴う「ふるまい」(視線)にあわせ、その情報を「受け取りたい」に伴う生徒の「ふるまい」(視線)の関係の表れです。これより、授業がデザインされていく過程でのコミュニケーション状態の「見える化」の可能性が示唆されました。

一方で、このデータの中には複数の生徒データが含まれています。そのため、全員が全く同じ同調傾向を示すわけではなく、限定的な教育場面での例にすぎません。さらに、教育の営みは、一方向的な教示に依存するものでもありません。そのため、極めて限定的な結果として慎重に解釈すべきデータとも言えます。ただ、これくらいのことであれば、大規模な機材・高度な技術開発をしなくとも実施できてしまいます。

4:道具から試される「私たち」

現状、すでにあるテクノロジーは、教育機能の効率化のみでなく、その営みの本質の解明にまで寄与する可能性が十分にあると考えられます。

そして、AI技術をはじめ、今まだ、教育活用への糸口が明確にはならないテクノロジーもスマホと同じように一人ひとりの手の中に納まり自明的に使用される日が訪れることは時間の問題だと思います。

実際に、私たちの生活の裏側でテクノロジーは爆発的に発展し続けており、その開発規模・速度に恐怖すら覚えます。このような現実を見ると、テクノロジー(道具)側から、「君たちに我々を使えこなせるのか」と試されているようにも感じます。

人が自ら創ったものなのに皮肉なことですが、これから、私たちは、テクノロジー(道具)側から試される機会が増えていくかもしれません。これは、教育領域についても同じことが言えると思います。益々、一人ひとりが物事の本当の意味をよく思考し行動していかなければならない時代なのだと感じます。

本稿は、教育とテクノロジーの間に身を置く私から、少し先の未来の教育に向けた簡単なレポートでした。本文が誰かの目に留まり新たな対話が生れるそんなことがあれば嬉しい限りです。その時は、未来の教育について共に語り合いましょう。Hallow_New_Generation

プロフィール

  • 教育学部 教育学科 助教
  • 最終学歴:慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 博士後期課程 所定単位取得退学
    玉川大学工学研究科 博士(工学)
  • 専門:教育工学、教育システムデザイン、乳幼児教育学
  • 職歴:
    ・国立音楽大学附属幼稚園 専任教諭
    ・相模女子大学 学芸学部 子ども教育学科 非常勤講師
    ・北里大学 医療衛生学部 視覚機能療法学専攻 非常勤講師
    ・玉川大学 教育学部 通信教育課程 非常勤講師
    ・玉川大学 脳科学研究所 嘱託研究員
    ・玉川大学 学術研究所 助教
    ・株式会社ベネッセコーポレーション 事業戦略本部 RD推進課 教育研究DRI
    ・玉川大学 教育学部 教育学科 助教
  • 著書:
    ・山田徹志、宮田真宏、中村友昭、前野隆司、大森隆司:機械学習を用いた「子どもの育ち」の可視化-位置・向き情報を用いた関心推定の試み-、日本教育工学会論 文誌 Vol.45,No.4,365-376,2021
    ・山田徹志、宮田真宏、大森隆司、前野隆司:子どもの関心を推定する為のセンシングシステムの開発 試験実装による位置・向き情報の検出精度評価、日本システムデザイン学会誌第1巻 第1号 pp.65-71,2021
    ・大森隆司、山田徹志、宮田真宏:第8章6節 人工知能を用いた子供の関心推定、人工知能を用いた 五感・認知機能の可視化とメカニズム解明、p.446-453,技術情報協会,2021
    ・宮田真宏、山田徹志、大森隆司:機械学習を用いた「子どもの育ち」の可視化、p.29-35日本工業出版 画像ラボ、2021
  • 学会活動:日本教育工学会、教育システム情報学会、日本乳幼児教育学会