教員に求められる異文化間コミュニケーション力

2022.02.01
尾関 はゆみ

今年度より教育学部教育学科に着任しました、尾関はゆみと申します。専門は、児童英語教育、多文化教育です。私自身も、本学の通信教育課程で学び、小学校教諭免許状を取得しました。通信教育課程には、仕事、子育て、介護等と並行しながら学業に取り組まれている方も多いと思います。時間的、体力的に大変なこともあると思いますが、入学されたときの気持ちに時々立ち返りながら、それぞれの目標を達成されることを心より願っております。

さて、昨今の教育においては、さまざまな大きな変化が見られます。その一つが、小学校の外国語教育かと思います。2011年度より小学校高学年で外国語活動が必修化され、2020年度からは、中学年で外国語活動が必修化、高学年では教科外国語として、外国語教育が導入されています。外国語教育の導入に伴い、小学校の教育現場でも、外国人のAssistant Language Teacher(以下、ALT)の方々の姿が見られるようになりました。学生の皆さまの中には、小学校教員を目指されているかたもいらっしゃると思いますが、現場に出られた際、今後ALTとティームティーチングを行う機会もあるかと思います。そこで、今回は、調査研究メンバーとして私も携わりました 『小学校・中学校・高等学校におけるALTの実態に関する大規模アンケート調査研究』(吉田・狩野・和泉・清水他, 2017) のうち、小学校の外国語活動に携わるALT(655名)の回答結果をもとに、異なる文化背景をもつ教員間のコミュニケーションについて、考えてみたいと思います。

この調査において、“How do you feel about the amount of interaction you currently have with JTEs?” (日本人教員との関わりは十分だと思っていますか)という問いに対し、47%のALTが「適量」と答えた一方で、合わせて43%が「全く十分でない(12%)」、「十分でない(31%)」と答えています。日本人教員と十分に関わりを持てていると感じているALTと、そうではないALTの二極化が見られます。また、“Please write freely any comments you have about your relationship with JTEs.”(日本人教員との関係について何かありましたら、自由にお書きください)という問いに対して、日本人教員と良好な関係を築いていることがわかるポジティブなALTの声がある一方で、「ALTに対する期待や要求を明確に示してくれない」、「いいことしか言ってもらえず、改善点をはっきり指摘してもらえない」と言った意見が多く見られました。ALTはより良い授業をしたいという思いから、率直な意見や建設的な議論を求めていることが窺えます。また、回答の中には、「日本人教員がコミュニケーションをとろうとしてくれない」という回答に見られるような、そもそも関わってもらえないという声も多く見られ、「一生懸命努めているが、学校の中で自分は教員メンバーの一人と見られていないと感じる」といった回答もありました。

これらは、互いの「言葉の壁」のみに起因するのではなく、コミュニケーションスタイルの問題もあると考えられます。ALTの多くが欧米文化圏出身者であることを考えると、率直に意見を述べ合う、ちょっとした機会を見つけて気軽に声をかける、笑顔で挨拶をする等、彼らにとってはごく自然に行われる習慣と、日本文化を背景にもつ日本人教員のそれらとが異なることが、ALTにとってはコミュニケーションの不足として日々積もってゆくことがコメントから推測されます。「もし、自分がALTだったら…」と、異国の見知らぬ土地に来て働くということに思いを馳せてみると、周囲とのコミュニケーション、人間関係構築を求めるのは自然なことであり、それが無いことで感じる疎外感やストレスは大きいと推察されます。

ALTの回答の中に、「お互い英語力、日本語力が十分ではないが、なんとか考えや気持ちを伝え合ってやってきた。今はとてもいい関係が築けている」というコメントがありました。こうしたコメントから、私たちが子どもたちに身につけてほしいと考えている、「言語や文化的背景の異なる相手とも自ら関わり、伝えあう努力をし、協働して物事に取り組む力」は、今まさに教員自身に求められている力でもあることがわかります。

ALTに加え、多様な言語的・文化的背景をもつ子どもや外国人保護者も増えています。子どもたちは、大人の言動をよく見ています。外国語や外国語活動の授業、学校生活において、教員自身が異言語や異文化をどのようにとらえ、異なる言語的・文化的背景をもつ人々とどのような姿勢で関わるか、それが子どもにとって最も身近な異文化間コミュニケーションのロールモデルになるといっても過言ではないでしょう。学生の皆さまには、子どもたちが「多様性の価値」を頭で理解するだけでなく、教師の姿を通して感じることができるような教員になっていただきたいと思います。

参考文献
吉田研作・狩野晶子・和泉伸一・清水崇文他(2017). 『小学校・中学校・高等学校におけるALTの実態に関する大規模アンケート調査研究 最終報告書』上智大学.
https://www.bun-eido.co.jp/aste/ALT_final_report.pdf.

プロフィール

  • 教育学部 教育学科 助教
  • 最終学歴:桜美林大学大学院 国際学研究科言語教育専攻英語教育専修 修士課程修了。英語教育修士。
  • 専門:児童英語教育・多文化教育
  • 職歴:上智大学短期大学部・白百合女子大学等非常勤講師、上智大学国際言語研究所共同研究所員、東京純心大学専任講師等を経て現職。
  • 著書:
    論文等に、『小学校ALTから見た小学校外国語活動の現状と課題』、『多文化社会における子どもの言語権と言語教育-これからの保育者・教育者に求められることとは』、『日本人教員と外国語指導助手(ALT)の異文化間コミュニケーションに関する一考察-ALTによる自由回答記述計量テキスト分析から―』等がある。
  • 学会活動:日本児童英語教育学会、小学校英語教育学会、異文化間教育学会 等