夏期スクーリングの思い出と期待

2022.03.23
瀬沼 花子

 夏期スクーリングでは「算数」「算数科指導法」「教育学演習」を担当させていただきました。意欲ある受講生の皆様と一緒に楽しく学べた、あの暑い夏の日の6日間を、なつかしく思い出します。以下では、スクーリングの様子を簡単に紹介しながら、スクーリングで心がけたこと、算数・数学を学ぶ上で重要なことを述べたいと思います。

1.他の人の考えや学び方を知る

 スクーリングでは、レポートを全員が発表する、場合によってはグループに分かれて他の人の書いたレポートを読み良かったと思うレポートを推薦する時間を設定しました。同じテーマのレポート課題でも人によって解答の仕方は異なります。わかりやすい発表の仕方、多様な視点を学ぶことができ、費やした時間や努力の跡が見えるレポートの書き方を知ることができ、私が説明するよりもよほど効果的だったと思います。

2.算数・数学と実世界の関係を知る

 コロナ禍のこの2年間は、ソーシャル・ディスタンス「1mの距離を取る」ことが強調されています。でも私のスクーリングでは、13年も前から「1mの長さでテープをカットする」活動を取り入れてきました。なぜかというと、算数・数学がずっと得意で問題がすらすら解ける私が、小学校で唯一自信のなかった問題だからです。最初は適宜、2回目は手のひらの長さ、両腕を広げた長さなど測ってから再度1m課題に挑戦します。
 長さに関しては「身の回りのものの長さを測り、写真を3枚撮って提出する。長さを測ったことがわかるよう、定規など基準になるものも一緒に写真に含める。」というレポート課題を出したこともがあります。自らも写真に入り、身長は〇〇〇cmだから、これは〇〇cmという解答もありました。
 ここでは長さの例を紹介しましたが、数と計算、代数、図形、量、変化と関係、関数、データの活用など、あらゆる領域で算数・数学は実世界と関係しています。

3.算数・数学の便利さ、不思議さを知る

 算数・数学は暗記と考えている人がいます。確かに暗記は問題をすばやく解く手段として大変重要です。でもそれが成り立つのはなぜ?と問われたときに、理由を説明できることも同じくらい重要です。
 理由の説明を行う際に、スクーリングでは、まずは算数・数学の便利さ、不思議さと関連付けて、体験する活動を取り入れました。「電卓に挑戦しよう!」は、暗算と電卓でどちらが速いかと競う活動です。特定の数字(25×25、62×68、87×83など)の場合、なんと、暗算の方が電卓のキーを打つよりずっと早いのです。まずはやり方を学び、次に、その仕組みを考えます。

(図1)

 「円周率って何?」では、円を分割し並び替えて長方形に近い形をつくる活動、丸いものの直径と円のまわりの長さを実際に測り、わり算を行う活動から、まわりの長さをどうやって測ればよいか、算数の授業でこの活動を指導する際の注意点などポスター形式で、受講生がお互いに発表し質問する場を設定しました(図1、図2)。場合によっては、円周率に一生をかけた数学者、円周率に関する東大の入試問題、江戸時代には円周率が3.16と考えられていたことなど補足的に解説しました。

(図2)

 また「誕生日あて」「思った数字をあてる」「トランプカード」など、算数・数学の不思議さを味わうマジックのやり方も解説しました。算数・数学を好きになるきっかけはいろいろあります。マジックもそのきっかけの1つとなれば幸いです。

4.算数・数学の問題をつくる

(図3)

 スクーリング中に、グループになって日付が答えになる「算数・数学カレンダー」を作成する活動を何度か取り入れました(図3、図4)。誰しもが小学校、中学校、高等学校で10年間から12年間かけて算数・数学を学んでいますが、それらはバラバラな知識となっていて体系化されてないかもしれません。ところが、それぞれの学校段階で学んだことを思い出せば、答えが1になる問題は「2-1=」「1×1=」「1000㎏=□t」「ある分数にその逆数をかけると?」「tan45°」などたくさんあったことがわかります。
 算数・数学は答えが一つに定まり、これが正しい答えだと論理的に示すことができる点によさがあります。一方で、実世界には複数の解がある問題、時には解のない問題もあります。また日本の生徒は「数学は発展性がない」「数学は答えが決まっている」と考えがちな傾向があります。
 算数・数学教育において創造性を高める指導法には「オープンエンドアプローチ」(いろいろな解を考える)、「問題づくり」(元の問題の一部を変えて新たな問題をつくる)などがあります。「算数・数学カレンダー」の作成は、それらの延長線上にある活動と考えています。

(図4)

5.おわりに

 子供が算数・数学を好きになるのは、指導する先生が算数・数学を楽しむ姿を見せることがキーポイントと考えます。算数・数学は、時には難しく苦しいかもしれないけれど、先生を目指している方は、是非楽しんで、好きになってください。皆様の今後の学校でのご活躍を、大いに期待しています。

プロフィール

(髪のはえぎわから目まで、
目から口までの長さの比は?)
  • 教育学部 教育学科 教授
  • 筑波大学大学院博士課程教育学研究科(教育学修士)
  • 専門: 数学教育学
  • 職歴:
    2009年4月~ 2022年3月 玉川大学 教育学部 教授
    2001年1月~2009年3月 国立教育政策研究所・教育課程研究センター・基礎研究部・総括研究官
    1998年4月~2001年1月 国立教育研究所・科学教育研究センター・数学教育研究室・室長
    1993年7月~1998年3月 国立教育研究所・科学教育研究センター・主任研究官
    1983年4月~1993年6月 国立教育研究所・科学教育研究センター・数学教育第一研究室・研究員
  • 著書:
    ・瀬沼花子(2021)「実世界と結びついた算数・数学教材の展望―国定算数教科書『カズノホン』を中心に―」玉川大学教師教育リサーチセンター年報 (11), pp.33-46
    ・瀬沼花子(2021)「学校での算数・数学とジェンダー ─研究と実践の進歩から学ぶ」『学術の動向』日本学術協力財団.2021年26巻7号. pp.22-29
    ・長崎栄三・瀬沼花子・猿田祐嗣(2008)『TIMSS2007 算数・数学教育の国際比較-国際数学・理科教育動向調査の2007年調査報告書』国立教育政策研究所.
    https://www.nier.go.jp/timss/2007/report_math.pdf(2022年2月22日閲覧)
  • 学会活動:
    ・元日本数学教育学会理事(2005年~2016年)
    ・元全国数学教育学会理事(2009年~2021年)
    ・元日本科学教育学会理事(2000年~2004年)