件名って何?――知られざる蔵書検索の小わざ

2022.05.01
松山 巌

町田市立図書館および本学の図書館の検索ページより。
どちらも検索項目のリストの中に「件名」がある
  • 太郎
    「ねえ,花子さんて司書コースだったよね」
  • 花子
    「うん,そうだけど。どうしたの」
  • 太郎
    「図書館のサイトで星座の本を調べてるんだけど,何かうまくいかなくって」
  • 花子
    「どれどれ? ああ,蔵書検索の画面だね」
  • 太郎
    「書名のところに『星座』って入れたら,星座の本もあるけれど,関係ない本も多いような気がするんだよね」
  • 花子
    「ちょっとよく見せてね……なるほど。『三軒茶屋星座館』とかは星座の本というより小説だな。他には星座占いの本もある。このCDは,収録曲の中に『真冬の星座たちに守られて』が入ってる。要するに,書名の欄に『星座』って入れて検索すると,タイトル中に『星座』という文字が含まれている資料(注1)が全部検索されちゃったわけだ。こういう,関係ない情報まで出てくることをノイズっていうんだけど,なぜこのノイズが出てきたのかなって考えると頭の体操みたいで面白いよ」(注2)
  • 太郎
    「そりゃあ花子さんにはおもしろいかもしれないけれど,僕はやっぱり余計な情報は少ないほうがいいな」
  • 花子
    「じゃあ,件名検索を使うといいよ」
  • 太郎
    「けんめい? 都道府県とか?」
  • 花子
    「そうじゃなくって,こういう字(と画面のボタンをクリックする)」
  • 太郎
    「こんな項目あったんだ。見たことなかったな」
  • 花子
    「ワンクリックしないと出てこないところが多いからね」
  • 太郎
    「で,件名ってなに?」
  • 花子
    「まず使ってみよう。検索項目を『件名』に変えて,『星座』っていれてみて」
  • 太郎
    「……おー,星座の本がたくさん出てきた」
  • 花子
    「検索結果をよく見て。本のタイトルに『星座』の2文字が入っていない本もあるでしょ。『日本の星名辞典』とか『春をつげる星』『星空の地図』とか。タイトルに使っている言葉とは関係なく,内容が星座だったら出てくるわけ。つまり『この本の内容は全体として○○について書いてある』と言ったときの○○のことを件名っていうの。だから逆に,たとえタイトルの中に『星座』の2文字があっても,内容が全体として星座について書かれていなければ出てこなくなる」
  • 太郎
    「賢いねえ」
  • 花子
    「あとね,件名には同義語の統制ってのがあって,同じ意味の言葉は1つに統一するというルールがあるんだ。たとえば,『育児』と『子育て』は大体同じ意味だよね。そこで,子育てについて書いてある本は件名としては『育児』で統一しておく。そうすると,『育児』で件名検索すれば全部出てくるよね」
  • 太郎
    「でもそれだと,逆に件名を『子育て』だと思って検索したら見つからないのでは?」
  • 花子
    「そうなるね。もっとも,『子育て支援』という行政用語があるので,それに関する本は出てくるけれど,一般的な子育ての本は出てこない」
  • 太郎
    「じゃあ,その同義語統制ってのはどうやったら分かるの? 育児は〇,子育ては×,子育て支援は〇,みたいに分かるといいんだけど」
  • 花子
    「情報資源組織演習Bという司書課程の科目をとると,BSHという辞書みたいな本を使って件名をつける練習をするんだけど,大部だし,一般の人が使いこなすのは難しいかも。とりあえずは試行錯誤かな。自分で思いついた,件名になっていそうな語を試しに入れてみたり,タイトル検索したりして,出てきた本の詳しい情報を見て,実際にはどういう件名がついているのか確認するのがいいと思う」
  • 太郎
    「そっか,便利そうだけど難しそうな気もする」
  • 花子
    「慣れるまで最初はちょっと時間がかかるかもしれないけれど,うまく使えると便利だよ。いろいろ試してみて」
  • 太郎
    「うん,そうするわ。今日は忙しいところありがとう」
  • 花子
    「また何かあったら気軽に聞いてね」
  • (注1)
    図書や雑誌やCDなどをまとめて「資料」と呼ぶ。また,図書館によっては「~が含まれている」という部分を「~で始まる」などに変えられるところも多い。
  • (注2)
    検索結果は,図書館が所蔵している資料によって変わるので,当然ながらいつもこうなるとは限らない。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 准教授
  • 東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
  • 中学・高校の理科教諭(地学)を経て現職。
  • 専門は図書館情報学(情報資源の組織化を中心に)。
  • 著書:『CD-ROMで学ぶ情報検索の演習』『韓国目録規則3.1版日本語訳』(いずれも共著)など。
  • 学会活動:日本図書館情報学会、日本図書館研究会、日本地図学会など。
  • 関心のある分野は韓国、漢文、フォント、音声学、地質学、確率論など。
  • 趣味はカラオケ、地図読み。
  • 好きなものは辞典・事典、新聞の号外、計算尺、スコア(総譜)、クリスマスの音楽。