子どもを問題解決に誘う文脈を創る

2022.06.01
八嶋 真理子

 昨年の夏期スクーリング「理科指導法」での事、「八嶋先生、子どもってこの実験をしていて、本当に面白いと思うのでしょうか?」 大学2年の体育学科の学生が、小学校理科の教科書を頼りに、振り子の教材研究を行っていたときに発した素朴な質問である。振り子の周期に関わる要因が、振り子の長さであるのか、おもりの重さや振れ幅であるのか調べる。10往復を3セット、かかる時間をひたすら丁寧に計測して平均をだし、結果をグラフにプロットしていく作業。これを、「本当に面白いの?」「どこが面白いの?」と思う20歳のピュアな感覚こそが、教員としての成長の芽といえるのではないだろうか。「確かに単純な作業が続くね。だからこそ、この問題に子どもを誘う状況を創ること、例えば、ストーリーに入れ込むことが必要になるね。」と私は応えた。

 「理科指導法」の授業の中では、子どもが自然の事象を身近に感じることができるように、教師が子どもを問題解決に誘う文脈を創っていくことの大切さをいくつかの具体的な事例と共に学生たちに紹介した。例えば、名探偵コナンになって水溶液の謎を解いていくストーリーや、ツタンカーメン王と共に3000年間、王家の墓で眠っていたエンドウ豆を目覚めさせるストーリーなどである。私が教師役となり授業し、学生には、子ども役となって問題解決に誘われる体験をしてもらった。子どもの立場で、自然事象を捉え、いつの間にか問題解決に誘われた体験によって、学生は理科学習の楽しさを見出すことになった。自然の法則やきまりを教えなければと思うあまりに、ただデータを集めるような無味乾燥な授業ではなく、アイディア次第で楽しい文脈が創れることに気付いたのである。

 先に紹介した学生は、グループで議論しながら「ターザン大会」という活動で始まり、見出した振り子のきまりを実際に活用する「ターザン大会」で終わる指導計画を作成した。まさに、子どもが主体的に学ぶ文脈を創ることに取り組んだのである。指導案を基に行った模擬授業の中では、「振り子の秘密が分かると誰でもターザン大会で優勝できるんだよ。」と楽しそうに学生たちに話しかける教師役の彼女の姿が、そこにあった。

 「主体的・対話的で深い学び」というが、この実現に向けて大切なことの一つは、前述の学生が口にした「子どもってこれを本当に面白いと思うのかな?」と思える教師の感性ではないだろうか。そう思えるからこそ、どのように授業を行えば、子どもが学びの世界に入れるのか、子どもが主体的に学ぶようになるのかと授業改善への方策を考えるようになる。子どもの主体性を喚起するのは教師の仕事である。

 単に覚えるのではなく生きて働く生涯の知識を子どもが獲得するためには、考えを子ども自身が構築する必要がある。子ども自身も文脈を創りながら知識を構築していくが、教師もまた、子どもを問題解決に誘う文脈を楽しみながら創っていきたいものである。

プロフィール

  • 教師教育リサーチセンター 教職サポートルーム 客員教授
  • 横浜国立大学教育学部生物学科卒業(教育学士)
  • 専門:理科教育 生活科教育
  • 職歴:
    横浜市立学校 教諭
    横浜市教育員会 指導主事
    横浜市立学校 副校長 校長
    玉川大学教師教育リサーチセンター 客員教授
    小学校学習指導要領解説理科編 作成協力者(平成20年及び29年)
  • 著書:
    教科指導法シリーズ「小学校指導法 理科」(共著) 玉川大学出版部
    「小学校 新学習指導要領の展開 理科」(編著) 明治図書
    「小学校新学習指導要領 ポイント総整理 理科」(共著) 東洋館出版社
    「子どもが意欲的に考察する理科授業」(全4巻)(編著)東洋館出版社
    「小学校理科室経営ハンドブック」(共著) 東洋館出版社    等々
  • 学会活動:
    日本理科教育学会 「理科の教育」編集委員