人と人とのつながりとひろがり

2022.10.01
湯藤 定宗

コロナ禍で憂鬱なことが多いことは事実ですが、そんな中で嬉しい出来事があることも一方で事実です。私は、タイトルの通り、改めて、「人と人とのつながりとひろがり」をコロナ禍ゆえにより強く感じることがありました。今回は、自分自身のアメリカ(以下米国)体験を通してコロナ禍での出来事をお伝えしたいと思います。

さて、この原稿は滞在先の米国の首都ワシントンD.C.で書いています。ご承知の通り、2020年からの2年間は、海外調査が以前のようにはできなかった状況がありました。しかし、このままでは、研究が進まないという焦りもあり、Tran Phong氏の協力を得て、2022年9月にチャータースクール(以下CS)調査を実施することにしました。CSとは、米国ミネソタ州で1991年から導入され、現在は9割ほどの州で制度化されている公立学校選択制度です。‘Waiting for superman’や‘Most likely to succeed’の映画でもCSが取り上げられていましたので、映画を見られた方はお分かりかと思いますが、学校経営の自由度が高い新しい公立学校です。

少し話が遡りますが、2021年9月にPhong氏からメールが久しぶりに届きました。彼とは2016年にニューオーリンズのCS調査で知り合い、2017年、2018年も調査に協力してもらいました。しかし、その後、彼は別のCSを立ち上げるためにアーカンソー州に移ったという話を聞きました。

私は研究対象が米国ということでCS関係者に調査依頼をしてきました。一方で米国の方からも依頼を受けることも頻度は多くはないですが、あります。特に記憶に残っている依頼が二つあります。一つ目は2002年に当時Education Week(米国の教育新聞)の記者であったKathleen K. Manzo氏(2021年よりHager Sharp社の副社長)からメールで日本の教育状況を取材したいという依頼がありました。面識があったわけではなかったのですが、当時からCS調査で米国の教育関係者の方々にはお世話になっていたことから、兵庫県のとある小学校に取材依頼をし、記事にもなりました(https://www.edweek.org/education/a-reporter-abroad-safety-concerns-up-classtime-down-in-japan/2002/07)。

この依頼に比べて、上記したPhong氏からの依頼は、コロナ禍ということもあり、ハードルが非常に高い内容でした。その内容とは、日米の教員交換プログラムの提案でした。目的は、端的に言えば、両国の教員が異なる国の教育の実態を知ることや国際交流を通じての異文化理解のため、という説明を受けました。

国内の依頼先を探すことが最初の難関でしたが、幸いにも理解を示してくださったある自治体の教育長のおかげで、まずは、米国アーカンソー州からの教員3名を5日間小・中学校で受け入れていただけることになりました。この原稿の締め切りが、プログラム実施前ですので、この場で報告することができないのは残念ですが、今後は期間の拡大や双方の教員派遣の実現に向けて、微力ながら国際交流のお手伝いができれば、と考えております。

左からPhong氏、Hense氏、私、Harris氏との写真

「人と人のつながりとひろがり」という点で考えてみますと、原稿を書いている今日、対面で20年ぶりにワシントンD.C.においてManzo氏に出会うことができました。また、Phong氏にも会うことができました。現在、Friendship Aspire Academy Arkansasという組織が有する6つのCSの責任者でもあるPhong氏は、今回のプログラムを受け入れてくれた教育長や日本の教育関係者に直接お礼を言いたいということで、3名の教員とともに来日します。上記した私の経験もそうでしたが、人との出会いや再会は、偶発性を伴います。2022年9月現在、日本ではまだコロナ禍ではありますが、今回の4名の来日による「人と人とのつながりとひろがり」を通して、嬉しい出来事が生まれることを強く願っています。

プロフィール

  • 所属:教育学部教育学科通信教育課程
  • 役職:教授
  • 最終学歴:広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。
  • 専門: 教育経営学
  • 職歴:
    ・広島大学教育学部助手(2000年度)
    ・岡山短期大学幼児教育学科(2001~2002年度)
    ・岡山学院大学人間生活学部(2003~2005年度)
    ・帝塚山学院大学文学部(2006~2013年度)
    ・玉川大学教育学部(2014年度~現在に至る)
  • 著書:
    ・『学校教育制度概論【第三版】』(編著、玉川大学出版部、2022年)
    ・『学びたい beyond』(編著、デザインエッグ社、2020年)
    ・『教育課程編成論【新訂版】』(共著、玉川大学出版部、2019年)
    ・『子どものために「ともに」歩む学校,「ともに」歩む教師を考える』(共著、あいり出版、2019年)
    ・『講座現代の教育経営1 現代教育改革と教育経営』(共著、学文社、2018年)
    ・『公教育の問いをひらく』(共著、デザインエッグ社、2018年)
    ・『学びたい Unlearn』(編著、デザインエッグ社、2018年)
    ・主要論文として「教育経営研究の有用性と教育経営研究者の役割」(単著、日本教育経営学会論文誌、60号、2018年)などがある。
  • 学会活動:
    日本教育経営学会、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会 会員