復興とはなにか?

2022.11.01
原田 眞理

コロナ禍になり、既に2年半以上が経過し、今年は行動制限のない夏となりました。とはいえ、東京都の感染者数は4万人を超え、非常に神経質になったところもありましたが、8月末に3年ぶりの学部のゼミ研修を復活することができました。
私のゼミは、子どもの心の理解を大切にし、臨床心理学の視点から学校における問題を考えたり、自然災害後の心のケアを学びます。私は、子どもたちと信頼関係のある教員がまず心のケアができるようになることが大切だと思っています。スクールカウンセラーなどの専門家につなぐより前に、まず子どもたちの話を聴くのは子どもたちが信頼を寄せている教員だと思うからです。もちろん専門的な心理療法は専門家に任せますが、教員がきちんと子どもの話を聴く、子どもに向き合うことが大切だと思います。
ゼミ研修は、毎年福島県双葉郡川内村に伺っています。今回はそれ以外に、帰還困難区域である飯館村長泥地区、震災遺構浪江町立請戸小学校、東日本大震災・原子力災害伝承館も訪問しました。
川内村は帰村宣言が2012年だったこともあり、震災の爪痕を見ることも感じることもあまりありません。しかし、6号線を走ると、「あのときのまま」の景色に出会います。まるで営業しているような洋服店、ガソリンスタンド。でも誰もいません。ディスプレイしてある洋服は、よく見ると日焼けしており、ボロボロです。カレンダーは2011年3月のままです。除染されていない場所の雑草は家を隠すように生い茂っています。ゴーストタウンという言葉の通りです。学生は初めピンとこなかったようですが、言葉を失いながらバスの車窓から見ていました。今回は、事前に放射線についての講義を受けていたため、線量計を代表の学生に持ってもらいました。帰還困難区域はさすがに東京よりも高い数値となっていました(図1)。とはいえ、健康に被害が出るような数値ではなく、放射線についても、科学的な知識を持って正しく怖れることが大切だということを実感できたことと思います。

現地を見てもらうことで、学生には「あなたの考える復興とはなにか?」という課題を出して考えてもらいました。
除染が進み、道路も整備され、学校が整備され、コンビニやスーパーができた、病院もある。これが復興でしょうか?復興とは元に戻ることでしょうか?
川内村では、震災後にワイン作り、いちご栽培、きのこ栽培などが積極的に行われています。それぞれの場所で、葡萄やいちご、きのこについての説明を伺うと、質問に対してたくさんのことを教えていただきました。若者が自分の興味関心のあることを究めていく姿、村の特徴を活かしながら、村民の方々が一生懸命それぞれの栽培などに打ち込む姿をみて、学生たちは「復興って、次に進むことなんだ・・」と感想を述べていました。復興支援と軽々しく言えなくなった学生を見て、色々なことを学んでくれたと思いました。
学生たちは実際に自分が被災地に赴き、見学することにより、小学校などにおける社会科見学や宿泊体験の大切さも実感できたことと思います。ただ見学するのではなく、事前学習をすることにより見学のポイントも明確になります。知識と体験が双方あることにより、私たちは身に付く学習ができると思います。

図1 ゼミ研修中の個人線量計のデータ
遠藤きのこ園にて
飯館村長泥地区にて環境再生事業を見学

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 東京大学大学院医学系研究科(心身医学講座) 博士(保健学)
    日本臨床心理士資格認定協会臨床心理士
    公認心理師
    日本精神分析学会認定心理療法
  • 専門は精神分析、臨床心理学、教育相談、医療心理学。災害関係のトラウマについて研究しているが、特に東日本大震災後の在京避難者支援を行っている。
    東京大学医学部付属病院分院心療内科、虎の門病院心理療法室、聖心女子大学学生相談室主任カウンセラーなどを経て現職。
  • 著書:『子どものこころ、大人のこころー先生や保護者が判断を誤らないための手引書』『子どものこころ―教室や子育てに役立つカウンセリングの考え方』『 グローバル化、デジタル化で教育、社会は変わる』『改訂第2版教育相談の理論と方法』『女子大生がカウンセリングを求めるとき』『カウンセラーのためのガイダンス』など(含共著)
  • 学会活動:日本心身医学会 代議員、日本精神分析学会、日本心理臨床学会 会員