保育の醍醐味

2023.03.01
上田よう子

2022年度に教育学部乳幼児発達学科に着任いたしました、上田よう子と申します。
玉川大学で保育を学び、卒業後は児童発達支援センター、公立保育所で保育士として勤務しました。その後、玉川大学の大学院で学び直し、現在は乳児保育や保育内容「言葉」、子育て支援の研究をしております。玉川大学や玉川大学大学院での学びは、小さな赤ちゃんや子どもであっても、その子の言葉や思いを人として尊重していくものでした。この教えは今もなお私の心に沁みついています。様々な場所で「私も玉川の通信教育で資格を取りました」とお声をかけていただくことがあり、大変嬉しく身が引き締まる思いです。

保育で鍛えられた『観察眼』

 保育士だった頃は、常に子どもの表情やしぐさから体調に変化がないか、行動の背景には何があるのかということを考え、表面上以外の発信を見逃さずにキャッチしていく「観察眼」を養っていました。言葉で自分の気持ちを表現できない乳児や、配慮を必要とする子には特に、発信しているあらゆるものを受信して子どもの気持ちを理解しようと努めていたのです。
 この観察眼という力は、神経を研ぎ澄まし死角になりやすいところまで気を配っているため、経験を積んでいくと複数の子どもがどこで何をしているかということも把握できるようになります。背後でいたずらをしようとしている子どもに、「先生の頭の後ろには目があるんだよ」と言うと、2歳の子が「嘘だぁ」と言いながらも恐る恐る私の後頭部に本当に目があるのか確かめようとしていることがありました。

「助けて」と言える人言えない人

 この観察眼は保育の場を離れてから、子育て支援の場においても役に立ちました。生後4か月までの乳児がいるすべての家庭の玄関先に子育て情報をお届けするという「こんにちは赤ちゃん訪問(乳児家庭全戸訪問事業)」の訪問員を経験させていただいた時には、お母さんの表情や雰囲気から孤独か、子育てに疲弊しているかどうかということを察知していきました。
 子育てで大変な時に「助けて」と言える人には力があります。「助けて」「困っています」という言葉を出せずに、自分が困っていることにも気づけずに疲弊している人もいれば、「相談はありますか?」と聞いても全く大丈夫ではないにも関わらずに「大丈夫です」と答える保護者もいます。信頼関係を築くために心をほぐせるような会話をして安心してもらえるように時間をかけていくと、怒涛に相談が始まることがありました。
コロナ禍での自粛により、家庭内の様子が周囲から見えにくくなっており、訪問支援の必要性を感じる都道府県は89%となり、アプリやオンライン相談などITを駆使した支援や家庭に届けるアウトリーチ型支援が注目されています1)。「助けて」と言える人・言えない人それぞれに届く支援のあり方を子育て相談サロンや研究で模索中です。
 その子やその人にとって、本当に安心できる人やものやコトってなんだろうと思いを巡らせていると、ふとした時にぴったりと相手の心に合うことがあります。
 ある日暴れん坊だった子どもは、可愛い大型犬のように人懐っこい子どもになり、柔らかい表情や、親しげなしぐさとなって信頼関係が築けた空気感が流れ、保護者には「先生に出逢えて良かった」とお言葉をいただくこともあります。試行錯誤や失敗も多々ありますが、子どもや保護者の声なき声に耳を傾ける、これが保育や教育の場でないと味わえない醍醐味のような気がしています。
 保育者あるいは教師の立場から、子どもや保護者の発信している様々な情報を受け取りながら思いを巡らせて、この醍醐味を味わっていきませんか?

参考資料:1)令和3年2月文部科学省総合教育政策局
地域学習推進課家庭教育支援室「令和2年度『地域における家庭教育支援の取組に関する調査結果』(都道府県・市区町村向け調査)」
https://www.mext.go.jp/content/20210215-mex_chisui02-000096251_1.pdf

プロフィール

  • 教育学部 乳幼児発達学科 講師
  • 最終学歴:玉川大学大学院教育学専攻修士
  • 専門: 子ども学・乳児保育・子育て支援・幼児教育学
  • 職歴:
    ・保育士として勤務(児童発達支援センター、公立保育所)
    ・子育て相談サロン主催(~現在)
    ・和泉短期大学実習助教
    ・玉川大学教育学部 通信教育課程 非常勤講師
    ・洗足こども短期大学専任講師
  • 著書:
    ・『乳児保育の理解と展開』(共著、同文書院、2019)
    ・『学生・養成校・実習園がともに学ぶ これからの時代の保育者養成・実習ガイド』(共著、中央法規、2020)
    ・『保育原理 (新しい保育講座①) 』(共著、ミネルヴァ書房、2018)
    ・『保育・教育実習 (新しい保育講座12)』(共著、ミネルヴァ書房、2020)等。
  • 学会活動:
    ・日本保育学会
    ・日本保育者養成教育学会
    ・日本乳幼児教育学会
    ・TEAと質的探究学会