子どもの「分かる」を軸として

2023.03.01
小谷 恵津子

 2022年度4月に教育学部教育学科に着任しました、小谷恵津子と申します。今年度は、通信教育課程では、夏期スクーリングⅡ期『現代教育研究Ⅰ/教育学演習B』と、テキスト履修『社会』のレポート添削を担当していますので、これらの科目を履修されている皆さんとは、講義などを通して関わりをもたせていただくことができました。

 今年度の夏期スクーリングは、オンラインでの開講となったために、残念ながら受講生の皆さんと実際にお目にかかることはできませんでした。しかし、様々な目的のもと、全国各地で様々な年代の方が学修に励まれていることを、身をもって感じることができました。これまでリアルタイムでの遠隔授業の経験が乏しかったため、講義内容の組み立てや資料共有の方法など、至らないところも多々あったことと思います。受講者の皆さんに助けていただきながら、6日間の日程を無事終えることができたことは、わたくし自身にとっても、たいへん貴重な学びの機会となりました。
 また、テキスト履修のレポート添削では、お伝えしたい内容をどのように表現すれば良いのか、日々試行錯誤しながら取り組んでいます。受講生の皆さんのお顔が見えないなかで、文字でのやりとりを通しての関わりとはなりますが、学修の伴走者としてなんとかお力になれればとの思いで、皆さんから提出されるレポートを読ませていただいています。

 わたくしはこれまで、社会科教育、なかでも小・中学校における地理教育の分野で、研究に取り組んできました。近年では、小学校における地図学習や、地図活用という視点から社会科における防災教育にも関心をもっています。また、社会科と関係の深い教科である生活科において、地図活用のあり方や小学校社会科との接続のあり方にも研究の領域を広げています。
 
 研究の道に進むようになったきっかけは、中学校教員時代にある生徒が私にかけてくれた、「先生がとても一生懸命授業をしてくれているのは分かるけれど、先生が授業で教えてくれることはよく分からない」という言葉でした。その言葉がきっかけとなって、「分かる」とはいったいどのようなことなのか、そして、子どもが授業内容を「分かる」ためにはどうすればよいのか、ということと向き合うようになりました。
 言われた時にはたいへんショックを受けたのですが、思い切って正直な気持ちを私に伝えてくれたその生徒に、今では心から感謝しています。そして、その後研究を進めていくなかで、わたくしが社会科授業において「分かる」ことを実現する手立てとして着目したのが、授業で用いられる「資料」でした。現在は、ここからさらに発展して、前述のように地図に関連することがらを中心に研究に取り組んでいます。
 
 地図は、地理教育に限らず社会科教育全体において、非常に重要な役割を果たす資料です。地図とは「何がどこにあるのか」を示すだけのものだと考えておられる方は、少なくないのではないでしょうか。しかし、地図は社会のなかに存在する様々なしくみを見出したり、社会が抱える様々な課題の解決について考えたりする際にも、実は大きな役割を果たします。社会科では、地図のそうした役割を生かしながら学習を進めていける力が求められます。ところが、国立教育政策研究所がこれまで実施した様々な調査では、社会科教育において課題がある事項として、地図活用能力の育成が繰り返し示されてきました。
 一般的に地図を活用することは、「技能」として捉えられています。しかし、長年にわたって課題が改善されてこなかった原因の一つは、まさにその点にあるとわたくしは考えています。「技能」の基盤に存在する「分かる」という部分にアプローチすることで、どの子どもも地図を活用できるようになるのではないだろうか…それは「常識に対する挑戦」とも言える発想ですが、わたくし自身は手応えを感じています。

 現在はご縁あって小・中学生が使う教科書や地図帳の編集にもかかわらせていただいていますので、研究の成果を社会に還元していきたいとの思いを、いっそう強くしています。もし、関心を寄せてくださる方がいらっしゃいましたら、プロフィールにお示しした論文のなかには、すでにWeb上で公開されているものもありますので、ご一読いただけましたら幸いです。
 今後は、小学校3年生から学ぶ社会科だけでなく、低学年で学ぶ生活科や中学校・高等学校での学習との接続を視野に入れた研究にも、力を入れていきたいと考えています。そして、「地図っておもしろい!」「地図ってとても便利!」と感じながら、子どもたちが学校での授業や日常生活のなかで楽しく地図を活用できるようになるお手伝いができればと願っています。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 教授
  • 最終学歴:兵庫教育大学大学院 連合学校教育学研究科 先端課題実践開発専攻 先端課題実践開発連合講座 修了 博士(学校教育学)
  • 専門:社会科教育 生活科教育
  • 職歴:
    ・奈良県公立学校(中学校)教諭
    ・畿央大学 教育学部 講師
    ・畿央大学 教育学部 准教授
    ・玉川大学 教育学部 教育学科 教授
  • 著書・論文等:
    (著書)
    ・『中学校社会 指導スキル大全』(共著)2022
    ・『初等社会科教育の理論と実践-学びのレリバンスを求めて-』(共著)2022
    ・『社会系教育実践学論集-子どもが探究する授業実践を目指して-』(共著)2021
    (論文)
    ・「生活科における地図活用の実態-『たんけん』を行う単元に着目した全国抽出調査の結果と改善に向けた考察-」,日本地理教育学会『新地理』第69巻第3号,2021
    ・「認識および表現の媒体としての機能に着目した地図活用による小学校社会科防災学習における学びの深まり」,社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第32号,2020
    ・「スケール認識の形成を視点とした小学校地図学習の改善-縮尺指導の授業構成と学習内容の検討を通して-」,日本地理教育学会『新地理』第65巻第2号,2017
  • 学会活動:
    ・全国社会科教育学会
    ・社会系教科教育学会
    ・日本地理教育学会
    ・日本社会科教育学会
    ・日本生活科・総合的学習教育学会 他