スクーリング「理科指導法」の思い出

2024.04.01
石井 恭子

2013年から玉川大学でお世話になりました。通信教育課程では、毎年夏期スクーリングで理科指導法を担当しました。通学課程と違うのは、6日間の集中講義であることと、全国から年齢も経歴も異なるさまざまな方が集まることでした。多くの方との出会いから、私自身もたくさんのことを学びました。厚くお礼申し上げるとともに、集中講義での様子をご紹介します。

事前レポートから、小学校では楽しかった理科が、中学でわからなくなり高校で避けていったという共通の傾向が見られました。特に、分野が分かれていく中で、物理や化学への苦手意識が非常に高いことも痛感しました。理科への苦手意識を少しでも払拭し、自信を持って授業できるように、小学校の学習内容について日常生活と中学高校での理論とを結びつけながら学び直すことが重要だと感じました。

小学校理科は、問題解決学習と言われます。2022年度より小学校高学年で教科担任制が導入されましたが、中学年理科は、科学を学ぶ第一歩を踏み出す大切な機会です。3年生の重点は「問題を見出す(問いを持つ)」、4年生の重点は「既習の内容や生活経験を基に根拠のある予想や仮説を発想する」と示されています。子どもたちが日常生活で出会う生き物や自然現象などについて「不思議、面白いね」「あれ?」と心が動くことが理科学習の始まりです。学級担任だからこそ、他の教科の授業で学んだことや学級の子どもたちの生活経験を生かした授業ができると考えています。

6日間の授業は、「自ら科学的探究を経験する」「児童が自ら問いを持って安全に実験し、表現する授業のあり方を考え教材研究を経験する」「教師が説明するのではなく『児童が科学する』理科の授業を経験する」という3つの柱で構成しました。3、4名ずつの班に分かれて、初めに実験の動画等をいくつか紹介します。まずは教えることは考えず小学生と同じように自分たち自身が「あれ?」「どうなっているのかな?」という問いを持ち、「何が起きているのか」「こうしたらどうだろう?」と予想や仮説を発想していきます。班で議論し、実験して試し、結果を観察したり記録したりしながら、「へ〜」「あ〜そういうことか!」と納得し理解する、この問題解決のプロセス(科学的探究)をまず自分たち自身が経験することを大事にしました。

教材研究では、自分たちがわくわくした問題解決を他の班の人も経験できるよう、安全で結果が見やすい実験とワークシートを準備しました。模擬授業は、一緒に教材研究した仲間と分かれ、大きな実験室の4隅で同時進行で行いました。児童役は、目の前の自然事象に向き合い、疑問や新たな考えを表現し合う、教師役はそのやり取りを間近で聞き、さらに問いかけていきます。自ら問いを持って実験し表現する(児童が科学する)理科の模擬授業が少しできたように感じました。模擬授業は、とかく教師のパフォーマンスが重視され、参加者は生徒「役」を演じ授業者を評価することが繰り返されることがありますが、声の出し方など大勢を相手に一斉授業する練習は他の機会に譲り「児童が科学する」授業を経験することを大事にしたかったのです。「教える自信がない」から、「理科って面白い」「こんな授業やってみたい」へと理科のイメージを大きく変えたのは、受講者の皆さん方ご自身が主体的・対話的で深い学びをしたからに他ならないと思っています。

多くの受講生が「理科は苦手」「できれば理科は教えたくない」という中に、中学校の先生や中学校教員免許取得中の学生さんなど理科が得意という方もいらっしゃいました。得意ですから簡単に教えるつもりが、「なんで?」「どういうこと?」と尋ねられ、相手がわかるように教えることの難しさに苦労する姿が印象的でした。自分と違う発想や考え方に触れることの学びを改めて実感しました。気の合う仲間と一緒にいると居心地が良いですが、それが当たり前になると想像力も好奇心も薄まっていくかもしれません。このことの重要性は、OECD(経済協力開発機構)によるキー・コンピテンシー(思慮深く考える力)にも示されています。変化の激しい社会の複雑な諸問題に対処するために、(1)言語や記号などを相互作用的に道具を用い(2)異質な人々からなる集団で相互にかかわり合い(3)自律的に行動する、という3つの視点が示されています。自分にとっての当たり前が、隣の人にとっては非常識かもしれないという感性をいつまでも持ち続けたいものです。

プロフィール

  • 所属:教育学部教育学科
  • 役職:教授
  • 最終学歴:お茶の水女子大学人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了(人文科学)
  • 専門:理科教育・物理教育
  • 職歴:小学校教諭、国立大学勤務を経て現職
  • 著書:
    『学力格差への処方箋』(共著、勁草書房、2021年)
    『小学校指導法・理科』(共著・編者、玉川大学出版部、2021年)
    『授業研究』(共著、新曜社、2021年)
    『保育内容 環境』(共著、みらい、2018年)
    『小学校理科』(編著、玉川大学出版部、2016年)
    『理科教育』(共著、一藝社、2016年)
    『子どもと楽しむ工作・実験・自由研究レシピ』(共著, 実教出版、2012年)
    『新学習指導要領に応える理科教育』(共著、東洋館出版社、2009年)
  • 学会活動:日本教育学会、日本教育方法学会、日本理科教育学会、日本科学教育学会、日本物理教育学会、など