「メタ認知」を促す理科授業

2024.06.01
八嶋 真理子

 理科指導法の講義で、「何も見ないで、ご自身の記憶にあるトンボの姿を絵に描いてください。」とお願いする。当たり前に思えるトンボの姿なのに、みなさんは、なかなか苦戦して思い浮かばない様子だ。羽は何枚だったのか、脚はどこから出ているのかと?のマークが頭の中にいっぱいに浮かんでいるようだ。「分からない自分や、なんとなく思い浮かぶトンボの姿を自覚することが、理科を学ぶ上で大切な宝物なのですよ。」とお話しすると、ほっと安心したお顔をしてくださる。集めて分類してみると、「はねが1枚のもの、2枚のもの」「頭、胸、腹の3つに分かれた物、頭と腹の2つに分かれた物」脚は皆6本だが「体からばらばらに出ている物、胸から出ている物」などに分類された。モデル図にまとめて掲示すると、「トンボの体のつくりは、どうなっているのか調べたい」という問題が生まれている。この後、トンボの模型を作成した学生は、振り返りで、次のような感想をまとめていた。「19年間生きてきて、トンボを知っているつもりになっていました。」「自分で描いたり作ったりすることで楽しみながら発見や気付きを得られることが分かりました。知っているつもりでとどまらず、意欲的に自然を見つめてみたいです。」

 この講義の参考にしているのは、私が15年前に出会った初任者の授業である。

 小学校3年生の子どもたちが、チョウの絵を描いていた。かわいいチョウが花の上を踊っている。よく見ると子どもによって羽が2枚であったり、4枚であったり、頭があったりなかったりといろいろな形である。教師は、それを整理して子どもたちに見せた。自分の描いたチョウの絵と友だちの描いた絵が違うことに気付いた子どもたちは、本当のチョウはどんな体なのかなと問題をもった。「先生、本物が見たいよ。」と言い出した。本物のモンシロチョウを観察した子どもたちは、「ぜんぜん違うね」と夢中でスケッチした。モンシロチョウに胸も腹もあるし足もあることに気付いた子どもたちのスケッチ。8歳の子どものものとは思えないくらい精密だった。

 子どもは、自分の絵と「体のつくり」という視点で整理されたモデル図とを比較することで、頭の中にあったチョウの体のつくりについてモニタリングすることができた。さらに、「本当はどうなのか、本物を見れば分かるはずだから見てみたい」という学習への意欲と見通しをもつことができた。まさに「メタ認知」におけるモニタリングとコントロールが行われていたと言えるだろう。

 資質・能力の「学びに向かう力」は、「メタ認知」が大きく関係すると言われる。知の構築には、自分の持つ知識を自覚化していく「メタ認知」が大切となる。日々の授業の中で「メタ認知」を促す努力を怠らずに行う教師でありたい。

プロフィール

  • 教師教育リサーチセンター 教職サポートルーム 客員教授
  • 横浜国立大学教育学部生物学科卒業(教育学士)
  • 専門:理科教育 生活科教育
  • 職歴:
    横浜市立学校 教諭
    横浜市教育員会 指導主事
    横浜市立学校 副校長 校長
    玉川大学教師教育リサーチセンター 客員教授
    小学校学習指導要領解説理科編 作成協力者(平成20年及び29年)
  • 著書:
    「これからの理科教育はどうあるべきか」(共著)東洋館出版社
    「理科の授業で大切なこと」(共著)東洋館出版社
    教科指導法シリーズ「小学校指導法 理科」(共著) 玉川大学出版部
    「小学校 新学習指導要領の展開 理科」(編著) 明治図書
    「小学校新学習指導要領 ポイント総整理 理科」(共著) 東洋館出版社
    「子どもが意欲的に考察する理科授業」(全4巻)(編著)東洋館出版社
    「小学校理科室経営ハンドブック」(共著) 東洋館出版社    等々
  • 学会活動:
    日本理科教育学会フェロー 「理科の教育」編集委員