「主体的・対話的で深い学び」が成立する授業の工夫(導入編)

2024.10.01
湯藤 定宗

教員になることを目的として通信教育課程に入学された方々は、教育実習に行き、初めて授業を行うことになります。さらに教員になれば、学級づくりも含めて、日々授業を行うことになります。教育実習生や教員の関心事の一つは、「主体的・対話的で深い学び」が成立する授業だと思います。そのための授業技術等を身につけたいと強く望んでおられると想像します。というわけで、求められているかは定かではありませんが、私の授業技術等を提供したいと思います。動画でも公開していますので、興味がある方は、ご覧ください。


私が担当する全ての授業では、最初に「正解信仰」とそこから脱する方法について説明することにしています。私は「正解信仰」を以下のように説明しています。教室では子どもたちが自分の意見を自由に言うというよりは、教員が求めている正解に寄せた発言を子どもたちがすることが多い。そうなる理由は教員自身が「正解信仰」を有していて、それが教室全体に伝播し、その結果、子どもたちが自分の意見を安心して自由に発言することができなくなると。そして、脱正解信仰を実現するためのルールとして①笑顔、②聴く、③褒めて拍手、④否定しない、⑤積極的な参加、を設定します。簡単なルールではありますが、「心理的安全性」を確保することができるようになります。教員研修等でも同じ話をしますが(http://kaisei.matsue.shimane.jp/newstopics/principal/9660/)、実際に取り入れられた教員からは子どもたちが積極的に発言するようになった等のコメントも頂いています。
次に、授業初日は、学級づくりの観点からも極めて重要です。子どもたちはどんな教員なのかワクワクしつつ、同時に緊張もしています。そのような状況で多くの場合、緊張を解きほぐすアイスブレイクが行われます。盛り上がると教員が思っているアイスブレイクは、教室全体の雰囲気が一気に変わるのでつい使ってしまいますが、シャイな子どもにとっては心理的負担がかかっている場合も少なくありません。私がお薦めするソフトなアイスブレイクは、自分の緊張度をポストイットに○○%と書いて、それを周りと見せ合うというシンプルな方法です。そうすると、緊張しているのは自分だけはないことが分かり、結果、緊張度は下がります。このようにして子どもたちの「心理的安全性」を確保してから、授業に入っていくことをお薦めします。
授業の導入は「主体的・対話的で深い学び」を成立させるためには非常に重要な場面です。私が担当している授業「教育の制度と経営」を例に説明をします。上記のアイスブレイクの後に、日本の学校教育の問題点を各自で列挙してもらいます。緊張度は比較的下がっていますし、「脱正解信仰」の④否定しないのルール設定もあるので、多くの問題点が挙がります。年度によって異なりますが、いじめ、不登校、教員の労働環境等が挙がります。次に、それらの問題点を解決するための制度を挙げるように指示します。すると、学生はすぐには思い浮かびません。そこで私は「だから今から授業を通して、学校教育の諸問題を解決できる制度を学んでもらいます。」と発言します。すると、学生は学ぶ目的を自ら自覚できるようになります。このような導入は、小学校等でも実践可能です。
加えて、私が担当する授業では事前にテスト内容を開示します。いわゆる暗記問題は出しません。思考力・判断力・表現力を問う内容です。最初にテスト内容を開示することで学生の緊張度は低下し、常にテスト内容を意識ながら授業を受けることができます。これも「心理的安全性」を確保するための工夫です。
紙幅の都合で詳細な情報提供をすることはできないのですが、スクーリングを受講してもらえれば、「主体的・対話的で深い学び」を成立させるための授業技術等を共有できます。皆さんとスクーリングで共に学び合えることを心待ちにしています。

プロフィール

  • 所属:教育学部教育学科通信教育課程
  • 役職:教授
  • 最終学歴:広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。
  • 専門: 教育経営学
  • 職歴:
    ・広島大学教育学部助手(2000年度)
    ・岡山短期大学幼児教育学科(2001~2002年度)
    ・岡山学院大学人間生活学部(2003~2005年度)
    ・帝塚山学院大学文学部(2006~2013年度)
    ・玉川大学教育学部(2014年度~現在に至る)
  • 著書:
    ・『学校教育制度概論【第三版】』(編著、玉川大学出版部、2022年)
    ・『学びたい beyond』(編著、デザインエッグ社、2020年)
    ・『教育課程編成論【新訂版】』(共著、玉川大学出版部、2019年)
    ・『子どものために「ともに」歩む学校,「ともに」歩む教師を考える』(共著、あいり出版、2019年)
    ・『講座現代の教育経営1 現代教育改革と教育経営』(共著、学文社、2018年)
    ・『公教育の問いをひらく』(共著、デザインエッグ社、2018年)
    ・『学びたい Unlearn』(編著、デザインエッグ社、2018年)
    ・主要論文として「教育経営研究の有用性と教育経営研究者の役割」(単著、日本教育経営学会論文誌、60号、2018年)などがある。
  • 学会活動:
    日本教育経営学会(紀要編集委員)、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会 会員