コロナ渦を経て学校が大切にしたいこと
2024.12.01
芹澤 成司
先日「不登校の小中学生が過去最多34万人超、コロナ禍で急増し、その後も増え続ける(読売新聞オンライン)」という記事が掲載された。私はこの記事のあるようにコロナ禍で子どもたちを取り巻く課題は大きく広がったと考えている。
コロナ禍の子供たちの状況を端的に表しているのが「小中高生の自殺者数の年次推移」である。これによれば令和元399人であった自殺者数は、コロナ禍となる令和2年に499人に跳ね上がり、令和3年に473人、令和4年514人で令和5年には513人となった。先程に記事のように「コロナ禍で急増し」、コロナ禍が収束しつつある今も減少していない。この理由については、令和3年6月に「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」の審議のまとめに、親が在宅ワークになり、子供たちは邪魔にならないように気を遣って家庭にいなくてはならなくなった。そこで親はスマホやゲーム等に没頭する子どもたちの姿を見ることになり、叱責が多くなった。その中で子どもたちにとって居心地がよい家庭が失われていった。また今まで子供たちにとって学校が時に癒やしの場になり、避難場所となっていた。友人や教職員、部活動の仲間たちとのコミュニケーションは心の不安を解消していた。子供たちは休み時間や放課後の友人や先生との交流などの何気ない日常が失われたことで「息抜きできる場」を失い、成長に寄与する「自分を支える場所」がなくなってしまった。そして様々な悩みやメンタルヘルスの問題を抱える子供にとって、学級担任や養護教諭、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーへの相談を難しくなった。
子供たちはコロナ禍で親から避けられる自分、無視される自分に気づき、家庭には「居場所」がないと感じた。今まで救いであった学校の活動も制限され同じ空間で遊んだり、活動することができなり、自分に時間をかけて関わってくれる人が見えなくなってしまった。
それだけでなく、学校ではコロナ禍以降家出、自傷行為、オーバードーズが多くなっている。普通に過ごしていた子供がある日突然家出し、捜索願を出しても見つけることができない。そして突然帰ってくる。このようなことが多くあった。また家出、自傷行為、オーバードーズに関わった子どもたちに共通するのがSNSの存在である。SNSに「居場所」と「絆」を求めたが、SNSの「いいね」の数に見られる「絆」は薄く、満たされない。その行動は繰り返しながら深くなっていく。そこには「居場所」と「絆」を求めて放浪する子どもの姿を見ることができる。
私はこのような中で学校の役割を再認識した。笑顔で何気ない話ができる「居場所」としての学校。そして子供たちは様々な活動を通して、お互いを認め合いながら「絆」を紡いでいく。それが学校の原点である。だから教員は一人ひとりが安心できる「居場所」を学校の中に作っていかなくてはならない。子供たちは仲間と活動する中でお互いの良さを「いいね」ではなく、言葉や文章でお互いを認め合いながら「絆」を紡いでいくことを大切にしたい。だから教員は一人ひとりその子ならではの居場所はどこなのか、その中でどのように「絆」を創っているかを常に見ていく目を持ちたい。
プロフィール
- 氏名:芹澤 成司
- 所属:教師教育リサーチセンター
- 役職:客員教授
- 最終学歴:早稲田大学教育学部理学科(理学士)
- 専門:生徒指導、キャリア教育
- 職歴:
・川崎市立中学校 教諭
・川崎市教育委員会 指導主事
・川崎市立中学校 教頭
・川崎市教育委員会 課長
・川崎市立中学校 校長
・川崎市教育委員会 学校教育部長
・川崎市総合教育センター 所長
・川崎市教育委員会 学校支援総合調整担当理事