子どもの体験の大切さを考える
2025.03.01
青木 雄子
2024年度より教育学部乳幼児発達学科に着任しました青木雄子です。
大学では社会福祉学を学び、卒業後からこれまで、母子生活支援施設という児童福祉施設で仕事をしてきました。本学の通学課程では、「子ども家庭福祉」「社会的養護」等の子どもの福祉に関する科目を担当しています。通信教育課程では、11月オンラインスクーリングの「教育実践研究」「現代教育研究Ⅱ」の授業で、みなさんとご一緒させていただいています。今回のオンラインスクーリングでは、参加されたみなさんの、子どもや教育に対する熱くあたたかいお気持ちがとてもよく伝わってきた4日間でした。子どもと関わる現場での取り組みや子どもとの向き合い方など、みなさんの気づきや体験談から得られることがたくさんあり、私にとっても大きな学びとなりました。こうした機会は、幅広い年齢で様々な経験を持つ方々が共に学ぶことができる通信教育課程ならではの良さだと思います。
さて今回は、オンラインスクールの中でも取り上げた、子どもの体験の大切さについて考えてみたいと思います。
みなさんは、「子どもの頃の体験」というと、どのようなエピソードを思い出しますか。
放課後に仲の良い友達と公園で遊んだこと、遠足や社会科見学、修学旅行等の学校での行事、家族での集いや旅行、習い事等、様々だと思います。
文部科学省による「令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告」では、0歳から18歳までの追跡調査から、子どもの頃の体験がその後の成長に及ぼす影響について報告をしています。
例えば、小学生の時期における登山やキャンプといった「自然体験」は、中学生・高校生の時期における自尊感情や外向性を高めます。また、職場体験やボランティア活動等の「社会体験」は、学校での学びや活動に積極的に関わろうとする意識を高めます。このような様々な体験活動は、精神的な回復力や心の健康にも良い影響をもたらすとの結果が示されています。このことから、子どもの頃の体験が、いかにその後の成長過程に影響を与えているかがわかります。
一方で私は、女性と子どもを支援する現場にいましたので、母子世帯とそうではない世帯との「体験の格差」を痛感することがしばしばありました。経済的な理由や養育者の体調不良、忙しさ等から、習い事や、夏休み等の長期休暇に親子で外出する機会を全く持てない家庭も見受けられました。母子世帯に限らず、家庭の状況や様々な理由から、体験の機会を奪われてしまっていることもあります。子どもの置かれた環境によって体験の機会が得られないという現状は、子どもの権利に深く関わってくる課題であると考えます。
すべての子どもが等しく体験の機会が得られ、一つでも多くの夢を抱けるように、子どもを守るべき大人として積極的に関わっていきたいと考えています。
体験の中にある「人」との思い出
私自身の子どもの頃の体験を振り返ってみると、どの体験にも「人」が関わっており、その「人」との思い出が、私の心の支えになっていることに気がつきました。
小学校3年生の国語の授業で、とびうおの説明文を学んだとき、担任の先生がとびうおを焼いてきて試食をさせてくださったことがありました。初めて実際にとびうおをみた感動よりも私たちのために自宅で5~6尾もの魚を焼いてくださっている先生の情景が浮かび、嬉しかったのを覚えています。また、小学校2年生のころ、帰りの会でアコーディオンを弾いて歌ってくれた先生。アコーディオンへの関心もさることながら、巧みな演奏と音色の美しさに、先生への憧れの気持ちが膨らみました。思い返されるのは学校での体験が多く、子どもにとって学校は生活の一部であり、「体験の場」そのものなのかもしれません。そして「先生」という存在は、子どもにとって初めて社会と触れ合うきっかけを作ってくれる、特別なものなのでしょう。
みなさんは、ご自身の子どもの頃の体験を思い返してみて、いかがでしょうか。
保育や教育を志すみなさんは、子どもと共に過ごす中で、子どもの「こころに残る人」となりうるでしょう。子どものこころに残るということは、それだけ影響が大きく、重要な立場でもあります。大人が楽しみ、こころを動かし、学び続けることが、子どもたちの世界を広げることにつながります。だからこそ、まずは大人になったみなさん自身が、様々な「体験」を続けてほしいと思います。
参考資料
文部科学省「令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告」
https://www.mext.go.jp/content/20210908-mxt_chisui01-100003338_2.pdf
プロフィール

- 教育学部教育学科 乳幼児発達学科 准教授
- 最終学歴:日本社会事業大学専門職大学院 福祉マネジメント研究科
- 専門: 児童福祉 社会的養護 家庭福祉
- 職歴:
・母子生活支援施設にて25年勤務
(社会福祉士 精神保健福祉士) - 学会活動:
・日本子ども虐待防止学会
・日本保育者養成教育学会