漫画の方が理解しやすい?

2026.05.18
魚崎 祐子

「この子はいつも漫画ばかり読んでいて…」「本を読むのが苦手な子にはせめて漫画を」などといった声をしばしば耳にします。こういうと文字で書かれた本に比べ、漫画はとっつきやすく読みやすいものという印象を受けます。学校での学習を助けることもあり、学生時代にも「歴史漫画を読んでいたから流れがよくわかる」、「『あさきゆめみし』という漫画を読んでから古典の授業を受けたら『源氏物語』はスムーズに理解できる」などといった声を聞くことがありました。ところが私は子どもの頃からあまり漫画が好きではなく、読み終わっても話の流れを理解しきれていないことがありました。苦手な古典の成績が上がるのならと思い、おこづかいをはたいて『あさきゆめみし』を買って読み始めたにも関わらず、途中で挫折した記憶すらあります。登場人物の誰がかっこいいといった話題になっても、その顔すら曖昧で、読んでいる途中で誰が誰だか確認しないといけない状況になったりもしました。

「何故みんなはそんなに漫画が好きなんだろう?」「漫画ってそんなに読みやすいかなあ?」と思いながら育ったのですが、ある時、漫画好きの人たちは漫画を読むのがとても速いことに気づきました。そしてどのようにして読んでいるのかを聞いてみたところ、絵を見て話を理解しているということを知りました。「セリフなんて細かく読んでいないよ」という人もいました。私はそれぞれのセリフを一生懸命読んでいたため、時間がかかる割に流れを理解する精度が低かったのだということにようやく気づいたのです。考えてみれば当然のことですが、漫画は1コマ1コマの絵に様々な情報を詰め込んでいるはずです。しかし、文字に注意を向けることが優先され、絵に込められた情報を拾い切れていないのですから、内容を理解しきれないというモヤモヤ感を抱くことになるのは至極当然のことでしょう。何しろ顔の区別すら十分できていないことがあるぐらいなのですから。

今、私は自分が漫画を苦手としているという自覚を持ち、どちらかというと絵よりも文字情報の処理を得意としているのだと認識しています。授業中にそのような話を扱った時にある学生が「私も同じです」と言ってきました。思わず握手をしたくなるような気持ちになりました。多くの人がとっつきやすくて理解しやすいと考えているメディアをうまく利用できないとなると、自分の能力に問題があるようにも感じますが、あくまでも相性の問題であると考えています。まわりのみんなが読みやすい、わかりやすいと言っていても、自分には当てはまらないことがあるのです。

これは漫画だけの話ではなく、動画などにも同様のことがいえるでしょう。学習者が何もしなくても情報を与えてくれる動画は、一見とっつきやすい教材になります。しかし、そこから適切な情報を得やすいかどうか、学習者の頭の中に入っていきやすいかどうかは別物だと思われます。さらにそれらの情報が頭の中に記憶され、適切な知識として活用できるようになっていくかということを考えると、学習者によってはそんなにうまくいっていないというケースも少なくないように思います。他の選択肢について検討せずに、動画が一番取り組みやすいと思い込んでしまうのは少々安易かもしれません。ただし、これは漫画や動画の効果を否定しているわけではありません。周囲の人がどうであれ、自分はどのような教材であれば一番理解しやすいのかということを考えた上で選択していくことが必要だと言えるでしょう。

プロフィール

  • 教育学部教育学科 通信教育課程 教授
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 博士後期課程修了
    博士(人間科学)
  • 専門は学習心理学、教育心理学
  • 早稲田大学助手などを経て現職。
  • 著書に『Dünyada Mentorluk Uygulamaları』(共著、Pegem Akademi Yayıncılık、2012年)、『テキスト読解場面における下線ひき行動に関する研究』(単著、風間書房、2016年)、『研究と実践をつなぐ教育研究』(共著、株式会社ERP、2017年)、主要論文に『配布資料の有無が授業中のノートテイキングおよび講義内容の説明に与える影響』(単著、日本教育工学会論文誌(39)、2016年)、『短期大学生のノートテイキングと講義内容の再生との関係−教育心理学の一講義を対象として−』(単著、日本教育工学会論文誌(38)、2014年)などがある。
  • 学会活動:日本教育工学会、日本教育心理学会、日本教授学習心理学会、日本発達心理学会、日本教師学学会 会員