教員養成のための国際遠隔協同ゼミナール

2014.01.27
守屋 誠司

私は、TV 会議システムを使った国際遠隔協同ゼミナールの研究をしています。TV 会議システムとは、インターネット回線を利用して、相手から送られる映像を見ながら双方向でコミュニケーションが取れる通信機器です。企業などでは普及していますが学校での導入はあまり進んでいません。時々、○○大学の先生が小学校の子ども達に自分の専門の内容を教えていますというニュースがあります。しかし、これはイベント的な意味合いが強く恒常的ではありません。担任の先生が不得意な分野を、その道の専門家が補う場合が多いので、子ども達のためにはなるでしょうが、先生自身の教育力向上にはつながらないと思われます。

TV会議の様子(研究室にて)
TV会議中の画面 左上京都,右上玉川,左下ドイツ,右下タイ

さて、私が行っていますTV 会議の利用は、次の目的を持っています。教職を希望する学部学生や大学院生の、①視野を広げる、②英語力を高める、③ICT利用力を高める、その結果、④勉強・研究へのモチベーションを高める、⑤教材研究力を高める、です。

2011年は「数学科指導法Ⅳ」を受講していた工学部の3 年生5 名が、ドイツのカールスルーエ教育大学の学生と国際遠隔協同ゼミナールを行いました。これには、京都教育大学の大学院生、タイのラジャパット総合大学アユタヤ校の数学教師と学生らも加わり、4 地点を結んだゼミナールとなりました。1 回が1 時間半で、3回のゼミナールでした。本学の学生は、このような形態でのゼミナールは初体験であったため、英語によるプレゼンテーションの事前準備が大変で、3 回もリハーサルをして本番を迎えました。内容としては、日本の教育システムと小学校から高等学校までの幾何領域の内容と系統を発表しました。ドイツ側からは、ドイツの教育システムと各校種での数学内容の概要、コンピュータを使った教育例、ドイツの典型的な中学校の様子のビデオ紹介などです。ドイツでは、小学校に相当する基礎学校4 年制の後、中等学校に相当する3 種類の学校から選択して進学します。中卒に相当する基幹学校5 年制、普通高卒に相当する実科学校7 年制、大学進学を目的とした普通高校に相当するギムナジウム8 年制です。日本の学生はこの制度に興味を持ち、質問をしました。京都からは、日時計の原理とその教材化についての発表でした。

このゼミナールの結果、両国学生の学習意欲、学力、研究力に関して向上が認められ、国際ゼミナールの恒常的実施も可能であることが示されました。さらに、TV会議を使った写真やビデオによるドイツからの紹介は、英語が苦手な日本学生の理解を助けたり、プレゼンテーション技術の習得に役立ったりしました。

今後も、学生同士による国際遠隔協同ゼミナールを計画しています。お互いの国の数学教育の実際と課題、さらに、その課題を克服する新しい教育の内容と方法について研究発表していく予定です。

(「玉川通信」2011年8月号をベースに加筆修正)

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 教授
  • 東北大学博士課程情報科学研究科修了。博士(情報科学)。
  • 山梨県の公立小・中学校の教諭を勤めた後に、兵庫女子大学専任講師、山形大学助教授、京都教育大学教授を歴任。この間に山形県立保健医療大学、福島大学、大阪教育大学等の非常勤講師を務めた。京都教育大学名誉教授。山梨大学・東京福祉大学非常勤講師。
  • 専門は数学教育学で、教材開発や教育方法、数学的認知、比較数学教育、数学の文化史を研究する。
  • 数学教育学会理事。
  • 著書:『小学校指導法 算数』(玉川大学)編著・他多数。