近未来の学校の姿と各教員のかかわり

2014.04.14
湯藤 定宗

皆さんは、10年、20年後の学校や授業の様子をどのように想像されますか。それは、各児童生徒がタブレットを片手に、例えばアクティブ・ラーニングと称される、教師による一方通行ではない参加型の授業の様子でしょうか。あるいは少子化の進行による学校の小規模化や学校の閉校のような、すこしさびしく思ってしまうような学校の姿でしょうか。いずれにしても、さまざまな学校や授業のあり方について想像力を働かせて思い浮かべることができると思います。

地域の方々との懇親会風景①(集合写真2014年3月25日)

私がイメージする一つの学校の姿は、「地域とともにある学校」です。特に小学校では、地域の方々も運動会等の学校行事に参加される現状も鑑みて、学校や子どもたちの活動を活性化させる有効な方法の一つとして、団塊世代の大量退職の時代でもありますので、地域の人的資源をもっと積極的に使わない手はないと考えます。それぞれの地域には、近隣の学校や児童生徒に対して「貢献できることがあればしたい」、と思われている方々は少なからずおられます。

ちなみに、私の専門は教育経営学や教育制度学ですので教育政策的な話を少しだけしますと、数年前に文部科学省は『子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ~地域とともにある学校づくりの推進方策~』(2011年7月5日、学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議)を打ち出しています。教育政策を15年ほど前にさかのぼりますと、特に2000年頃から学校と地域との連携が推進されてきました。具体的には、2000年の学校評議員制度や2004年の学校運営協議会制度、いわゆるコミュニティ・スクール制度等の導入により、学校と地域との連携が日本の多くの公立学校で推進されてきました。

地域の方々との懇親会風景②(人間知恵の輪2014年3月25日)

一方で、そういった制度的な文脈ではないところから展開されている「地域とともにある学校」の取り組みも全国で多くみられます。その一つに、大阪府富田林市立高辺台小学校の「たかべ・みそ汁・元気いっぱい活動」があります。当該小学校区内に住まれていた故奥村秀雄さんの発案のもと2008年度から始められた同活動は、PTA以外にも、地域の多くの方々(ナルク富田林「露子の会」、富田林市食生活改善推進協議会「わらび会」)や帝塚山学院大学畑部も参加し、現在まで継続されています。それは、具体的には、2月の寒い時期に3回ほど全校児童に対して登校時に温かいお味噌汁を食べてもらう、という活動です。しかし、ただお味噌汁を児童たちが食べるのではなく、「総合的な学習の時間」を使って、地域の方々の指導をいただきながら、3年生全員で味噌汁に使う味噌を作る。さらに味噌の材料である大豆は、児童が地域の方々や帝塚山学院大学畑部の学生の指導のもと栽培したものだったりする。また、白菜や大根等の味噌汁の具材は、他の学年の児童たちが校内の畑で栽培した野菜を使っている。そして、学習面でも、3年の国語「すがたを変える大豆」の単元で、上記の活動を関連付けながら授業が進められるなど、地域の方々の活動と小学校の教育・学習活動が強い関連を持ちながら展開されている。

私もこの活動に5年間関わらせていただきました。毎年顔見知りの子どもたちが増えていき、みんなが自然とあいさつするようになっていきました。味噌汁を子どもたちにふるまった後で、地域の方々とそのお味噌汁を飲みながら活動を振り返っているときの盛り上がりはとても心地よく感じられました。こういった一体感は、一朝一夕で形成されるものではありませんが、学校の教職員の方々、地域の方々のお互いの少しずつの歩み寄りがあれば、それぞれの学校でも可能な「地域とともにある学校」の一つの具体的な姿だと思います。

教員を目指しておられる皆さんは、教科に関する学習や教育原理等の教職に関する科目を学修されていると思います。授業づくりや学級づくり、子ども理解などの領域に時間を割かれているとは思いますが、学校づくり(学校経営)も子どもたちにとっては非常に重要な領域です。学校経営は校長先生や教頭先生等管理職にしか必要ないと思われがちですが、一人ひとりの教員も積極的に関わってこそ、魅力的な学校づくりが実現していきます。
その際、地域の方々との関わりは、不可欠です。「地域とともにある学校」の具体的なイメージを各人にも抱いていただき、自分には何ができるか、当事者意識を持って考えてもらいたいと思います。

(平成26年4月1日着任)

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 准教授
  • 広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。教育学修士。
  • 専門は、教育経営学・教育行政学・教育制度学
  • 趣味:野菜づくりと読書、そして我が子たちと遊ぶこと
  • 著書に『なぜからはじめる教育原理』(共著、建帛社、2015年)、『新・教育制度論』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『教職概論』(共著、協同出版、2014年)、『新教職概論(改訂版)』(共著、学文社、2014年)、『教育制度と教育の経営(改訂版)』(共著、あいり出版、2014年)、『学校評価システムの展開に関する実証的研究』(共著、2013年、玉川大学出版部)、主要論文として『米国チャータースクールにおけるスポンサーによる学校評価に関する研究』(単著、日本教育経営学会論文誌(52))などがある。
  • 学会活動:日本教育経営学会(紀要編集委員)、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会 会員

趣味:野菜づくりと読書、そして我が子たちと遊ぶこと