視野を広げた教材研究を!

2014.11.05
守屋 誠司

図1 カザフスタンの「数学 1学年」より

昨年と今年の5月にカザフスタンの旧首都アルマティ市にあるカザフ国立教育大学・大学院で数学教育学の講義をしました。その際に,現地の学校で使用されている数学の教科書を購入しました。図1を見てください。何年生の教科書だと思いますか。
実は,小学校1年生が使っている教科書です。日本では6学年で扱う内容です。1学年から文字が導入され,簡単な方程式が教えられていることに大変驚きました。この教科書を調べてみると,他の内容でも日本より1年くらい早く教えられているようです。日本では6学年の内容である速さの指導は,4学年で行われていました。さらにその説明では文字を使った文字式が使われています。カザフスタンは昔ソビエト連邦に属していましたので,現在でもロシアの教育の影響を受けていると思われます。
さて,本当にこの内容を子供たちが理解できるのか,また,理解できるとして何パーセントの子ができるのが気になります。そこで今年の5月に訪れた際には,小学校での授業の様子を見学させてもらうことにしました。アルマティ市内にある2年生のクラスを参観しました。

写真1 2年生の授業風景

写真1は数学の授業の様子です。
乗法の交換法則と結合法則(写真1の画面下の等式を参照)を使って,簡単に計算するための工夫をしていました。もちろん授業では文字を使った説明が行われていました。指導方法は,日本のような1つの問題をじっくりと扱うのではなく, 1時間のうちに多くの問題を解いて,それらを解きながら理解を深めていく方法でした。課題を解き,採点を自分で行い,その結果によって次のプリントに進みます。
子どものノートには,写真2のように,宿題がやってありました。

写真2 2年生の数学ノート

小学校2年生ですから,かけ算(・)と割り算(:)を,方程式を使って解いています。どうやら,文字式を使った教科書の内容を理解しているようで,全員がマスターしていると見てよいでしょう。驚くべき実態です。
 カザフスタンのカリキュラムが日本のものより良いとは一概には言えません。しかし,文字式を自由に操る子どもの実態を目の当たりにすると,文字式は本来何年生から教えることが妥当なのかを,調べてみる必要性を強く感じました。日本の小学校のカリキュラムは,世界的にはよくできていると思います。しかし,ベストではありませんし,歴史的に固定化されていて子どもの思考に合わないなど,改良すべき点が散見されます。現場教師の目線から,カリキュラムや教科書を批判的に考察でき,オリジナルな内容を子どものために研究開発できるような教師を目指して欲しいと願っています。

プロフィール

  • 通信教育部 教育学部教育学科 教授
  • 東北大学博士課程情報科学研究科修了。博士(情報科学)。
  • 山梨県の公立小・中学校の教諭を勤めた後に、兵庫女子大学専任講師、山形大学助教授、京都教育大学教授を歴任。この間に山形県立保健医療大学、福島大学、大阪教育大学等の非常勤講師を務めた。京都教育大学名誉教授。山梨大学・東京福祉大学非常勤講師。
  • 専門は数学教育学で、教材開発や教育方法、数学的認知、比較数学教育、数学の文化史を研究する。
  • 数学教育学会理事。
  • 著書:『小学校指導法 算数』(玉川大学)編著・他多数。