「主体的・対話的で深い学び」が成立する授業の工夫(展開編)

2025.10.01
湯藤 定宗

昨年10月の「通信の風」において、心理的負荷が少ないアイスブレイクの具体例を示し、「脱正解信仰」や「心理的安全性」をキーワードとして、「主体的・対話的で深い学び」が成立する授業の工夫(導入編)を担当授業である「教育の制度と経営」を例に説明しました。今回も「教育の制度と経営」を事例に(展開編)として、導入後の授業の進め方について解説をします。
導入後に「現在の学校教育が抱える課題は何?」という問いを出します。そして、付箋を使って、いわゆるブレインストーミング方式で意見をグループ内で出し合った後に、教室全体で意見を共有します。その後、私が現時点で考える教育課題を示します。近年であれば、①インプット過多授業、②減点に基づく評価の在り方、③教育の保守性を挙げています。そして、なぜそれらが教育課題として捉えられるかを説明します。例えば、インプット過多授業の課題に関しては、コロナ禍以降特に共有された認識ですが、数か月先の世の中が読めないにも関わらず、過去において「正解」とされていた情報をひたすら暗記することにどれだけ意味があるのかを問います。現行学習指導要領において求められている「主体的・対話的で深い学び」の実現がインプット中心の授業形態では難しいことは、多くの教師が実感されていることだと思います。したがって、子どもたちが考えてみたいと思える問いを教師が出し、子どもたち同士や教師との対話に時間を割いて、深い学びを獲得していくためには、インプット過多ではなくアウトプット中心の授業を展開していく必要があります。(②減点に基づく評価の在り方、③教育の保守性の説明については、紙幅の都合上省略しますが、興味がある方は、スクーリングを受講してください。)
学校段階の違いによって、適切な授業方法や時間配分は必ずしも同じではないですが、教師の説明する時間をできる限り少なくすることは、共通して不可欠であると考えます。「教育の制度と経営」では、「反転授業」を取り入れて、学生によるアウトプットの時間を確保します。具体的には、毎回の授業において重要なキーワードの説明は、同じグループの学生同士で行います。最初は端的に説明できない学生も、予習の必要性に気付き、予習をして授業に参加するようになり、最終的にはキーワードを端的に説明できるようになります。他の学生に説明しなければならない義務感や当事者性の高まりにより、授業に取り組む学生の真剣度も徐々に高まっていきます。
学生同士によるキーワード説明の後は、学生からの質問を受け付けます。質問のレベルも授業回数を重ねるにつれ、向上していきます。これは、他の学生の良質な質問を聞きながら、自分の質問のレベルが上がっていくケースが多いように思います。テキストの説明を中心にすると必然的にインプット過多の授業になります。それを避けるためにも学生からの質問に応答する形で授業を進めていきます。想定外の質問も出てきますので、教師側の丁寧な予習も欠かせません。学校段階に限らず、一定の緊張感は、授業の質向上のために必要な要素であると考えます。
授業の中盤からは、構成的グループエンカウンター等のワークを毎授業で行い、アウトプット中心の授業をさらに展開していきます。具体例を挙げるとすれば、「7つの権利」ワークを行い、いじめが起こる理由といじめを発生させない学級づくりの具体について、議論を重ねていきます。いじめの原因の一つとして「異質性の排除」があることを確認し、異質なものを排除するではなく、それを多様性と理解し、多様性を尊重する学級づくりの重要性に気付けば、深い学びまで到達したことになります。この時授業者に求められるのは、teachする能力ではなくfacilitateする能力です。
来年度の「通信の風」では「主体的・対話的で深い学び」が成立する授業の工夫(まとめ編)を予定しています。もし、来年度まで待てない方、もしくはfacilitateする能力の詳細を知りたい方は、私が担当するスクーリングを受講していただければ、体験的に学ぶこともできます。

プロフィール

  • 所属:教育学部教育学科通信教育課程
  • 役職:教授
  • 最終学歴:広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。
  • 専門: 教育経営学
  • 職歴:
    ・広島大学教育学部助手(2000年度)
    ・岡山短期大学幼児教育学科(2001~2002年度)
    ・岡山学院大学人間生活学部(2003~2005年度)
    ・帝塚山学院大学文学部(2006~2013年度)
    ・玉川大学教育学部(2014年度~現在に至る)
  • 著書:
    ・『学校教育制度概論【第三版】』(編著、玉川大学出版部、2022年)
    ・『学びたい beyond』(編著、デザインエッグ社、2020年)
    ・『教育課程編成論【新訂版】』(共著、玉川大学出版部、2019年)
    ・『子どものために「ともに」歩む学校,「ともに」歩む教師を考える』(共著、あいり出版、2019年)
    ・『講座現代の教育経営1 現代教育改革と教育経営』(共著、学文社、2018年)
    ・『公教育の問いをひらく』(共著、デザインエッグ社、2018年)
    ・『学びたい Unlearn』(編著、デザインエッグ社、2018年)
    ・主要論文として「教育経営研究の有用性と教育経営研究者の役割」(単著、日本教育経営学会論文誌、60号、2018年)などがある。
  • 学会活動:
    日本教育経営学会(紀要編集委員)、日本教育行政学会、日本教育制度学会、関西教育行政学会、アメリカ教育学会、中国四国教育学会、日本教育事務学会(紀要編集委員) 会員